夢話-夢小説の間-





早朝






 朝、いつも教室に一番乗りする。
 早起きが好きなのではなくて、日輪が好きなのでもなくて、登校ラッシュ&通勤ラッシュに巻き込まれるのが嫌なだけだ。
 教室について、くっと扉をスライドさせ開かないことを確認してから職員室へ向かうのが日課。
 が、今日はカラカラと扉がスライドした。
 昨日教師が戸締まりを忘れたのか、それとも先客がいるのか。
 教室に入って見回せば、誰もいない。
 前者で当たりだろうか。

「あぁ、いっつも一番なのはきみかぁ」
「ひぇっ」

 どこからか声が聞こえ、思わず竦み上がる。
 鞄を胸に抱き寄せて左右を見れども誰もいない。

「こーこ」

 近くの机ががたりと音を立て明るい色の頭髪が見えた。
 にこっと笑う彼は、クラスメイトの猿飛くん。
 いつもだるさ全開なのにこんなに早く教室にいるなんて珍しい。

「おはよ、脅かして悪かったね」
「あ、おはよう。猿飛くん、今日は早いね」

 言うと、そーなんだよー、と机に突っ伏しあくび一つ。

「真田の旦那の朝練に付き合わされちまって……こちとら朝飯もまだだってのにいきなり引っ張り出すんだぜ?」

 ぴっと窓の外を指差すのでつられて見る。
 聞き取れない雄叫びを上げながらグランドを全力疾走している男子生徒が一人。
 真田くんは朝から、というか年がら年中あのテンションなんだろうか。
 試合が近いんだってさ、という猿飛くんの言葉が右から左へ抜けていく。

「元気だなぁ……」

 これだけ早く学校に来ていれば四時間目にあれだけ盛大な腹の虫が鳴るわけだ。

「他人は巻き込まないでほしいけどねえ」

 こちらは対照的に朝からぐったりだ。
 コンビニ行く気力もないんだろう。まぁ、うちの高校は近くのコンビにまで10分ちょっと歩くという立地条件だから、行くなら我慢するっていうのが学校内のセオリーというか、暗黙の了解というか。
 あまりに可哀想なので自分の机に教科書類を突っ込んで、鞄の中からいつものアレを取り出す。

「猿飛くん、いる?」
「いいの?俺様大感激〜」

 パッと顔を輝かせて飴を舐める彼はいつもと違って幼く見えた。何か、餌付けしてる気分だなぁ。
 次第にちらほらと登校してくるクラスメイトが増えてきた。今日もまた、周りが騒がしい一日になりそうだ。



「これより出欠を取る!幸村ぁ!!」
「お館様ぁあああ!!」
「……おい、猿飛、どうかしたか?」
「んー?」
「いつもの『ヤレヤレ』って名台詞出てないぜ?」
「ああ、ほら、飴入ってるから」







 佐助は微動だにせず舐めていそう。溶け終わるまで口の中で動かなさそう。








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2008.12.1