最悪な男
「最悪ですね」
率直な感想をのべれば、実に愉快そうな表情へと移り行く。
最悪、と言う言葉はどう寝転んでも誉め言葉ではないのに、何故にこの人は嬉しそうにするのか……理解しかねる。
いや、彼を――松永弾正久秀を私の物差しで図ること事態が誤りなのだ。
「私は君のその愚直とも言える素直さが気に入っていてね」
いや、聞いてないし。
それに、その物言いでは誉められた気がしない。
「身分を諸ともしないその発言に興味を抱かずにはいられないようだ」
茶器を愛でながら、呟く姿に嘘偽りはないように見える。
この人の場合は、あくまでそう“見える”だけだが。
「実に迷惑千万極まりない事象ですね」
目を彼から外して庭へ移す。
さすがというべきか、この人の庭は質素ながらも品があり、美しい。
庭師の腕がいいのか、それともそんな庭師を雇う彼の感性がいいのか。
恐らく後者あっての前者だろう。
「クク、実に興味深い」
背後でくつくつと一人笑い出す男の声。
ゆっくり目を戻せば、やはり愉快そうに笑う彼。
大の男が録に明かりもない部屋で笑っているのを想像してほしい。
気味が悪いし不気味だし、何より関わり合いたくない。
逃げたところで強制連行されるのは目に見えているから逃げないけど。
「言ってみたまえ」
突如のお言葉に首をかしげる。
「何をです?」
「君が今思っていることを、だ」
「……気味が悪いです松永さま」
「ククク、いや、やはり君は面白い」
こちらから言わせてもらえば、面白いのはこの人の方だ。
側室に誘う文句を、最悪ですね、でかわされてここまで愉快そうにする神経が理解できないを通り越して面白い。
「これからも楽しませてくれたまえ」
満足したような彼の瞳に目が奪われる。
子供のような人だ。
なんだかんだ、この人に惹かれているのは否めない。
というか、確定なんだ、側室入り。
「……最悪ですね」
二度目の台詞は、やはり彼の笑いを誘うだけだった。
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2010.1.30