夢話-夢小説の間-





心音





 石田さんは今日も元気だ。血管が切れそうなくらいに。

「おのれ家康ぅ!!憎い、貴様が憎い!
 未来永劫許しはしない!!たとえ首だけになろうと喰らいついて貴様を殺す!!」

 元気に憎悪を叫んでいる姿を仮にエキサイティング石田とでも名付けよう。
 その叫びの内容を想像して、ある一つの映像が私の中を駆け巡った。

「……モロか」

 本当に首だけになって憎き仇の片腕をもぎ取って行った山犬だか山神だか犬神だったか。
 それを脳内で石田さんに置換。
 石田さんなら本気でできそうだからなおのこと怖い。

「殺してやるぞぉおおおおお!!!」

 不穏な雄たけびに最初はなんだなんだと騒ぎになったものの。
 あ、今駆け出し俳優の声量訓練で、ええ、すみません、売れるかどうかの瀬戸際なのでなにとぞ、お金もなく、防音室とか借りれなくてすみません云々と近所の人たちは言いくるめた。
 ちらりと彼を見た近所の住民は、衣装や髪型まで気合入ってますね、頑張ってください、などと口々に言ってくれた。
 しかも何故か、近所の赤ん坊が彼の雄叫びを聞くときゃっきゃと機嫌よく笑うらしいので、子持ちの人からの苦情もない。

「あー、平和だなー」

 ずず、と茶をしばいて、ほう、と息をつく。

「平和だと…!!く、平穏だった私を返せぇええええ!!」

 騒いでいる中私の呟きが聞こえたらしい。地獄耳だ。
 というか石田さんの過去の平穏に私は全く関係がないのだが、どうして私が怒られるような形になっているのだろうか。

「石田さん」
「なんだ!」

 ちょいちょい、手招きをすれば、鋭い眼光を赤く光らせ黒いオーラを発しながら近づいてくる。
 貴様は世紀末覇者か。
 この人の叫びできゃっきゃと笑える赤子の精神を疑う。
 近くに来た彼の手を引いて、しゃがませて、耳が左の胸に当たるように抱き寄せた。

「な!」
「心音」
「に?」
「ヒトの心臓の音を聞くとね、落ち着くんだって」
「何を馬鹿な」
「だから実験。どう?」

 ばっくばっくいってる(もちろん命の危機的な意味で)心臓の音くらい聞こえるだろう。
 ちょっとした思い付きと、気まぐれだ。
 何か言いたそうにしていたが、耳を澄ますべく凶悪な目線がまぶたの裏に隠れた。
 先ほどの雄叫びが嘘のように静まり返り、外でスズメが鳴く声すら聞こえる。
 静寂の後しばらくして、彼の薄い唇が開いた。

「……脂肪が邪魔だ」
「死ね」
「しばしそのままでいろ。拒否は認めん」

 無意識なのか否か。
 擦り寄るようなしぐさを見せた石田さんはそれからしばらく動かなかった。
 …というか、微動だにしなかった。
 青白い顔、浅い、小さすぎる呼吸。
 生きているかどうか心配になるから、やっぱり石田さんはエキサイティングしていた方がいいかもしれない。
 別の意味でドキドキし始めた頃、珍しくそのまま寝入ったのか、全体重でのしかかられて私が潰れました。
 気まぐれなんて起こすもんじゃない。













+++あとがき+++
大谷さんが出ない石田さんなんて、佐助のいない幸村と同じ…!と思っていたら、思いの外ほんわかになりました。
石田さんがほんわかとか怖い。デフォルトでも怖い。さすが凶王様、なにしても怖い。

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2014.04.21