夢話-夢小説の間-





やる気スイッチ





 ダメだ。
 ダメダメだ。
 己なんぞ地の底の底に這いずり回る蛆虫の如く最低でどうしようもなく使えない矮小な存在なのだ。
 こんなことを考えている暇があるならばもっと生産的なことを、そう、仕事の、続きを、考えなければならないというのに。
 全っ然、いい案が思いつかないしなんか引っかかる事案があったのにそれも思い出せない。なんとなくで漁ってみても見つからない。
 やっぱり自分はダメダメで、最低で、あああ、だからこんなことを考えていることこそが、くそう。
 こういう時の最後の頼みの綱、とばかりに無礼を承知で三成様の元へ向かった。

「三成様、にございます」

 声をかければすぐに、入れ、と入室許可が下りる。
 は、と返事をし、素早く入室の後頭を下げる。
 中には大谷様もおり、お二人で今後について話し合いをされているようだった。
 く、多忙な三成様に時間を割いていただくなんて、と思いながらもうこれしか思いつかない。

「どうした」

 平坦な声に今日の機嫌はそう悪くないと判断するも、己の言葉でどうせ気分を害してもらうのだ。
 この際きっぱりはっきり言おう。

「罵ってください」

 きっと真顔で三成様を見つめて、一言。
 同席している大谷様の時が凍ったなど気のせいである、気のせいだ、気のせいとすべきなのだ。
 三成様ご自身はまたかと言わんばかりにため息をついた。

「お願いします罵ってください」

 三成様に罵られれば自然とやる気が出る。自然と案が沸く。
 言っておくが、これは私だけではない、はずだ。
 我が軍全体的に、だ。絶対。……たぶん。

「……死ね」

 一応罵ってみた感拭えない声を出す三成様。
 なんとお優しいのだ。
 だが、しかし、足りない。
 もっとこう、小早川殿を罵るような勢いで罵ってほしい。

「できましたらご遠慮なさらずもう少し語彙を多めに」
「…失せろ!貴様なんぞに構っている時間などない、己のすべきことに時間を割けこのうつけめ!!」
「ありがとうございます頑張ります!!!」

 ついでにその刀の鞘でぶん殴ってもらえるとありがたいです!
 と続ければ気持ち悪いと言わんばかりに顔を歪められ、さっさと失せろ愚図が!と怒鳴られた。
 ちなみに刀の鞘は私にぶつけられることなく畳を打ち、畳には穴が開いた。やはり三成様はお優しい。
 よし、三成様の罵倒を聞いたらなんだか頑張れそうだ。
 失礼いたしましたあの件は明朝までに必ずや!!と、大声で叫んで私は脱兎のごとく駆けだした。
 さっきの行き詰ったところは、ああしてみよう、いや、こうしてみるか?などと次々に案がわく。
 ああ、流石三成様だ。








「……三成よ、今のはなんだ」

 突然やってきて、己を罵れと希い、罵られた挙句に全力で礼を言い嬉々とした表情で去って行った女を見送って、大谷はぽつりと聞いてみた。
 城内で顔を見たことはある、ので不審者ではないのだろう。
 罵れと言って来た時点で頭の中身が正常か疑わしいが。

「政を担わせている文官の一人だ。時折ああやってくる。だけではないがな」

 それがどうかしたか、と言う様子の三成。
 まるでこれが日常だと言わんばかりだ。
 しかもアレの他にもまだいるのか。
 いいのかそれで、と口をついて出そうになった大谷だが、

「……いや、まぁ、なに、ぬしの……調教は、実に見事よな」

 キチンと回っているから今があるのだ、と思い直して当たり障りのない言葉で濁した。
 他軍から見れば罵倒の絶えない石田軍……なのだが、半分ほどは自主的に罵倒されたい面々が主に頼み込んでいることを、多くの人間が知らない。



















+++あとがき+++
 久しぶりの第三者視点。石田さんの罵倒は私のやる気スイッチです。あの語彙力と発声がたまらん←
 罵倒したいわけでもないけど罵倒してくれる石田さんは石田軍の天使的存在です。言ってる意味が段々わけ分からなくなるのは当方の仕様です。

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2014.07.08