夢話-夢小説の間-





Happy Birthday





 お誕生日おめでとう、と、綺羅綺羅しいいわゆるデコメとやらに、頭痛がして額を押さえた。
 いったい全体どうしたというのだ。
 送り主は何度見返そうがまごうことなくわれの恋人と言う関係の女だが、このようなメールを送る質ではない。そも、絵文字すらつけてこないのが常だ。
 悪ふざけか、熱でも出したか、友に悪戯でもされたか、携帯を奪われ遊ばれたか。
 可能性は様々あったが、これになんと返信をすればよいのだ。
 こんな下らないことに頭を悩ませるなど初めてだ。……初めての恋人で、初めて迎える誕生日なのだからそれはそうだろうが、しかしこんなことで悩むことを望んでいたわけではない。
 暫くそのままの格好で固まっていれば、どうした刑部?と涼やかな男が尋ねてくる。巻き込むか。

「いや、なに、祝いの言葉に固まってしまってな」

ほれ、と画面を見せれば、目の端がつり上がる。

「のろけか」
「違うわ」

 どう見たらそう見えるのよ。ではなんだ、と続ける三成に、見せた相手が悪かったか、と早くも後悔した。

「……なんと返せば良いのかわからぬのよ。そう祝いも祝われもせぬゆえ」

 無難な言葉はなにか。ググるか?
 真剣に相談したというのに、三成はなぜか呆れた視線をこちらへ寄越す。

「感謝でも伝えておけ」
「ふむ」

 感謝を、か。確かに。
 カチカチ、と未だガラケーの携帯をいじり、感謝の言葉を返信欄に打ち込む。それから送信ボタンを押そうとして、止めた。
 代わりに電話を掛けた。文字を送りつけただけで満足するのは違う気がした、というのもあるが、あの間抜けた声が聴きたかった。

『ぅあ、どうした!ダメだった?デコメ怒った!?吉継の好きなお星様作戦だめだった!?』
「……」

 電話口で出たとたんに慌てた声色が連なった。
 言われてみれば確かに星がちりばめてあった気が……。そうよな、こういう娘であった。あれはこやつなりの精一杯の祝いであったか。
 そうわかるとわかったで、口元が妙ににやけて仕方がない。今日ほど己の顔を包帯で覆い隠していてよかったと思うことはない。

『よ、よしつぐ?よしつーぐ!!』

 ぬしは徳川か。

「いや、なに、」
『生きてた!』

 勝手に殺すな。
 と、思うが言葉にならず、むず痒い何かがわれの口を止める。

「……ぬしに、感謝を」
『ファ!?』

 喜色とも取れるおかしな叫び声を聞いたところで限界だった。ぶつ、と電話を切って机に突っ伏す。暑い。今は涼やかな秋へと向かう頃だというのに、暑い。熱い。

「………………われはもうだめやもしれぬ」

 幸せすぎて、死ぬ。
 不幸よさんざめく降り注げと願っていた己はどこへ出掛けてしまったのだろう。出掛けたまま帰ってこなくともよいが、よいのだが、しかし、命題を失ったような気がしてならない。
 いや、だが、この綺羅星を手放せと言われても全力で抗うだろう。

「……それは何よりだ」

 呆れた様子で己の携帯をいじる三成など、完全に意識の外であった。












+++あとがき+++
 何をどう見たってのろけだろう、と思っても言わない石田さんマジ友達思い。
 最近大谷さんで思いつくのが妙に暗い話だったりドライな話が多かったりするので幸せになってもらいました。

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2014.06.18