夢話-夢小説の間-





 思いを込めて、ありったけ。
 伝える術は、言葉しか知らないけれど。
 私は、空に唄う。

 今は見えない貴方のために。



会いたい







 任務を終えて空を見上げる。
 空を見ると、いつでも思い出せる気がする。
 アイツの歌声。
 いつも空を見上げて唄うアイツの姿は目の裏に焼きついている。
 アイツが唄う歌は聞いたことがない調子で、聞いたことがない言葉で、意味なんてさっぱり分からなかった。
 けど、アイツの歌を、アイツの声を、聞くと、心が落ち着いた。
 忍に心ってのも、変な話なんだけど。
 縁側で、アイツの隣に座って、アイツが奏でる音を聞いて、アイツと一緒に笑い合う。
 柄にもなく、そんな一時が、幸せだと思った。

「――――

 呼べば、「なんですか?」と聞き返してくるような幻聴。
 帰れば会える。
 迎えてくれる。
 そう思っていた。
 もうアイツはいない。
 
「……会いたい」

 いつもと同じ、任務の帰り。
 バタバタといつも以上に騒がしい屋敷。
 大将と旦那のところに直行したけど、二人とも任務の報告なんて聞く体勢でもなくて。
 どーしたのさ、と聞けば。

殿がどこにもおらぬ!!』

 世界が、止まった。
 言葉が理解できないと感じた。
 忍隊を総出で動かすなんて、戦以外初めてだった。
 誰も、見ていなかった。
 もちろん、護衛としてアイツには秘密でつけていたやつはいた。
 けどそいつも、誰も、アイツを見失った。

は、あやつの世界に帰ったのかも知れぬのう』

 大将の言葉は思った以上に胸の中にすとんと納まった。
 けれど、俺の心が収まるなんてことはなくて。
 会いたい。
 会いたい。
 会いたい。
 声が聞きたい。
 顔が見たい。
 会えたらぜってぇ抱きしめて、放さない自信がある。

「……んで、何も言わずに帰っちまうんだよッ」

 アイツが自分でも知らない間にこっちに来たことは知ってる。
 だから、帰るときもアイツ自身が知らない間ってのは考えなかったわけじゃない。
 けど、でも、考えたくなかった。
 アイツに会えなくなるなんて。
 アイツが目の前から消えるなんて。
 ただ、考えたくなかっただけなんだ。

「俺様、どーにかなっちゃいそう……」

 風に乗って、アイツの歌声が聞こえた気がした。
 静かで、心地よい、俺が一番好きだといった歌が。
 幻聴だって分かってる。 
 振り向いたって、どこを探したっていない。
 分かってる。

『佐助さん』

 声が、聞こえた。
 分かってる。
 コレも幻聴だって。
 今は戦国乱世。
 俺は乱世に生きる戦忍。
 だけど、戦が終わったら。

「あんたが、世界の壁を越えてこっちに来たなら俺様にだってできる、だろ?」

 手を握り締める。
 アイツの声が残るこの空に誓うよ。
 らしくない、なんて言わせない。
 お館様に天下を取ってもらって旦那に暇貰ってやる。
 そしたら、絶対、絶対会いに行く。

「覚悟してな」

 忍のやることなんでもアリってなぁ。
 会いたいんだ。
 できれば今すぐ。
 それができないってわかってる。
 でもだからって、諦めるなんてできるわけないだろ?












 思いを込めて、ありったけ。
 伝える術は、言葉しか知らないけれど。
 私は、空に唄う。

 きっと、貴方に届いてると信じて。 
 










+++あとがき+++
現代からトリップした娘っこが急に帰っちゃったという設定。
最近佐助すぎるなぁv

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2008.07.17