夢話-夢小説の間-





しあわせのとき








 贅沢、だなぁ。

 何とはなしにそう思う。
 世は戦国乱世。平和なときなど、ましてや暇なときなど滅多にあものではない。特に、特に俺様みたいに優秀な忍は。
 普段働かせ過ぎるくらいの主たちが珍しく休みをくれて――忍に休みってなんだソレと思ったけれど俺様もらえるもんはもらっとく主義――、それじゃあってことで任務の折りに見つけたいい景色の草原の木陰でごろりとしている。

 これで隣にがいりゃ最高なんだけど。
 城を出るとき見たらちょっと忙しそうだったしなぁ。
 ごろりと寝返りを打って仰向けになる。
 木の間から降り注ぐ日の光。
 これぞ木漏れ日ってやつ?
 気配を沈ませれば小鳥だの蝶だの寄ってくる。

「あー……」

 なんつーか、似合わない。
 強烈な違和感を感じる。
 この風景のなかに俺がいるって、真っ白な書簡に墨垂らすみたいな、そんな違和感。
 そんだけ汚れまくってるってことなんだろうけど。
 やっぱ忍に休みなんて寄越すもんじゃないねぇ。
 これじゃ旦那の世話焼いてるほうがマシ、か。

 よっこいせ、と身を起こす。
 あーぁ、まだ昼にもなってないんじゃないの?
 
 あ、そーだ。
 せっかく来たんだし、一輪くらい拝借したっていいよな。

「悪いな、お花さん」

 そっと野花を手折って懐にしまう。たまにはお土産くらい、ね。
 任務とかだとそういうの残ったら困るってんで消費できる団子とか饅頭とかしか買えないし。
 これを渡したときのの表情が目に浮かぶ。
 きっと、顔を赤くしながらふんわり微笑む。俺が一番好きな顔。

「ヤッバいなぁ……もうこれ重症でしょ」

 今の俺様、不振人物で捕まる自信あるぜ。
 かすがに見られでもしたらクナイで串刺しだな。気持ち悪い!寄るな!ってな感じに。
 帰るの楽しみになってきちゃったんですけど!

「さぁて、さっさと帰ろっかねぇ♪」

 でもっての休憩時間に合わせて城下にでも下りるか。
 途端に帰りたくて仕方なくなってきた。
 現金なもんだ。
 でも、この俺をこんなにしちゃったが悪い。
 任務帰りよりも調子こいて上田城に飛んで戻ったのは言うまでもない。










 休憩時間になった途端、佐助さんが顔を見せた。
 あれ?確か幸村様にお暇をもらってたはずじゃあ?
 首をかしげるけれど、来い来いとばかりに手招きをされては行かないわけには行かない。
 女中仲間に断りを入れて休憩をもらう。

「佐助さん?」
「なぁに、ビックリした顔して」

 いやだって、そりゃビックリするもの。

「朝方から、お出掛けされてませんでした?」

 いないと思っていた人がいれば、それが、その好きな人なら、なおさらビックリで。う、嬉しいですけど。
 佐助さんはたぶん顔を赤くしている私にへへーと笑いかける。
 そんな嬉しそうに笑われると恥ずかしい。

「いやね、一日ばかり暇もらったんだけど、に会いたくて帰ってきちゃった」
「はへ?」

 ほい、と差し出されたものを恐らく至極間抜けな顔で見つめた。
 薄紫の可愛い花。
 そよりと風に揺れて、また私の方へ近づく。

にお土産」
「う、わぁ……っ!ありがとうございます!」

 嬉しい!
 たまのお休みなはずなのに、私にお土産だなんて、私のこと、気にかけてくれてただなんて!
 花を受け取って、佐助さんにペコペコする。
 うわ、これ大切にしよ!
 押し花とか、そうすればずっと持っていられるし!

「あとさ、休憩いつまで?」
「?半刻ほどいただいてます」
「じゃ、今すぐ町出る用意できる?」
「はい?」

 お使いかなにかだろうか。
 できますよ、と答えれば、じゃあ行こう、と微笑まれる。
 うん?
 状況がよく分からないんだけども。
 きょとんとしてると、佐助さんは照れたように頬を掻く。

「普段、一緒に町に行く、何てできないけど、今日ならできるかなって」
「うわ……」

 どうしよう。すごい嬉しい。

?」
「行きます行きます行きます!すぐに用意しますから!」

 ばたばたと、はしたないくらいに廊下を駆けて花を丁寧に仕舞い、外着に着替える。

「そんな急がなくても、いや嬉しいけど」

 佐助さんが呆れたように襖の間から顔を覗かせる。
 まだ着替えの最中ですけど!ああ、でも早くでかけたいからそんなことどうでもいいや。

「だって、だって、佐助さんと町に行けるなんて、嬉しすぎます!」

 帯を絞め終えて言えば、佐助さんは口許を押さえている。
 え、何か吐き気を催すような格好だった!?

「……反則過ぎでしょーがっ」
「は?」

 何て言ったんだろう?
 もう一度聞こうとして近づけば、右手を取られた。

「もーっ、準備いい?さっさと行こうぜ!」
「わっ、さ、佐助さん!」

 ぐいっと引き寄せられて、あっという間に横抱きにされる。
 ちょっと誰かに見られたらどうするんだ!
 いや、きっと佐助さんならどうもしないけど!
 私を抱えたまま軽々塀を飛び越えるのはさすがだ。

「俺、やっぱのこと大好きだわ」

 耳元に艶のある声で囁かれて、ぼふんと私の顔が噴火しました。










 可愛い可愛い恋人と、初めての城下町に出掛ける。
 付き合ってから大分経つけど、実際は俺様が忙しすぎて恋人らしいこともしてやれないままだった。
 あんなに嬉しいそうな顔してくれんだったらまた誘っちゃいたい。ま、俺様の主様たちが許してくれればだけど。
 左手には彼女の右手を握って、昼下がりの賑わいを見せる城下町を歩く。
 あー、こうしてるだけで俺様大満足。
 これが普通の、人間としての幸せってやつなんだなって思う。部下に見せられたもんじゃないね。
 出店で出てる簪や小物に寄せられてふらふらと歩く様が可愛い。
 逆らうことなく彼女の望む方向へと進んであげる。
 ふと、ひとつの小物屋では足を止めた。
 感極まったように何かを手にとっている。

「何々?何が気になるの?」

 手元を覗けば、紫の花をあしらった帯飾り。
 へぇ、やっぱも女の子だねぇ。
 にこーっと笑って何を言うかと思ったら、

「佐助さんにもらったお花みたいで可愛いなって」
「っ!」

 可愛いのはお前だっての!!
 始終、いいです、そんな悪いです、を繰り返すを無視して店の主人に金を払う。

「俺がに贈りたいの」
「だってお花もいただいたのに……」
「花だって贈りたいからあげたんだ。それとも、迷惑?」

 卑怯な聞き方だってわかってる。だけど、あんな嬉しそうでとろけそうな顔されたら是が非でもあげたくなるだろ?
 案の定、はブンブンと取れるんじゃないかと思うくらい首を振る。
 遠慮がちに帯飾りを握ってありがとうございます、と呟く。

「俺様の方見て言ってくれなきゃイヤー」
「うっ」

 あは、絶対顔真っ赤だ。俯いてても耳まで赤いから丸分かり。
 覗き込むと顔を反らされるけど、それは彼女の照れ隠し。
 キッと意を決したようにこっちを向く。

「ありがとうございますっ」

 頬どころか顔中真っ赤にしちゃって可愛いのなんのって。
 顔の筋肉が緩むのが分かる。

「俺様、今すっげえ幸せ!」

 緩みきった顔を向ければ、私もです、と返してくれる照れた笑み。
 胸が暖かくなった。
 しあわせ、だ、うん。
 このままずっといれたらいいのに。
 馬鹿馬鹿しいことを真剣に思えちゃうあたり、やっぱり末期なんだ。

「佐助さん」
「ん、なぁに?」
「……     」
「っ」
「さっきの仕返しですっ」

 もう可愛すぎ!
 小さく呟いたっての声なら聞こえるに決まってんだろ。

『大好きです』

 だなんて、愛の告白は特にね!










+++あとがき+++
ただの砂吐き夢♪
やっべ、こんなラブラブなの久しぶりに書いた。。。鳥肌もんだw

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2008.07.17