お見通し
旨い甘味に、旨いお茶。
天気は良好、気分は最悪。
いや、悪いのは私ですがね。勝手に不機嫌になってる私が悪いんでげすよ。けっ。
でもさあ午の刻には暇になるって言ってた癖に、午の刻に烏飛ばしても音沙汰ない佐助の野郎も多少悪いと思わんかね!?刻は今もう羊に移り変わろうとしているのだよ!
むかつくので東の通りの茶屋で一人お茶してると伝言飛ばして、西通りの茶屋にいますわけよ。
いーじゃんこれっくらいの八つ当たり。
「はぁ」
お茶を飲み干して一息。
まだ私のお腹は満たされないながら、これ以上食べたら夕食が食べれなくなることが目に見えている。
佐助を怒らせるためにやるのはいいかもしれないが、幸村様扱いされるのはごめんだ。
カタリ、と音がして、目線を上げる。
「東の通りの茶屋だって言ってなかったっけ?」
呆れた顔で言ったのは、町人の格好をした佐助。
相変わらず神出鬼没なやつめ。
「……間違えた」
「ハイハイ、ごめんね、待たせちゃって」
ぽふぽふと頭を叩かれる。子供か、私は。
……子供、か。
座った佐助はお茶を頼むと首を傾げてこっちを見ている。
「なに?」
「いや、なにかなって」
「別に何でもない」
ホントは聞きたいことも言いたいこともあるけれど、聞いたって答えは決まってる。
どっちにしても、佐助の前では私は子供並みのわがまましか言えないのだ。
「目の前に俺様がいながら考え事?」
「……うんまあ」
いてもいなくてもたぶん佐助のことしか考えてないかもしれない。
失格だな、いろいろと。
手の中で空になった器をもてあそぶ。
「なぁに考えてんの?」
少し拗ねたような声に目線を佐助に戻す。
口を尖らして、子供のように拗ねた顔を作っている。
あぁ、彼のこういう顔には弱い。
「……佐助のこと」
素直に言うと、佐助は豆鉄砲を食らったような顔をした。
「なんか、私ばっかり佐助のことが好きでむかつく」
「……って、時々真顔ですごいこと言うよな」
そうかな、と言えば、そうだよ、と肯定される。
「俺様いつ愛想つかされるかドキドキなのに」
「嘘つけ」
「いや本気本気」
「二回言った。嘘だな」
「ちょ、信じなさいっての」
ころころ表情が変わるのは忍としてはいかがなものか。
佐助は色々規格外だから別に今更なのだけど。
ふぅ、と手の中の器に息を吹き込む。
「期待してないくらいがちょうどいい」
「ひっでぇな」
さて、佐助もお茶飲んだことだし、行きますか。
立ち上がって店の人に佐助のお茶代も一緒に払って外に出る。
「いいのに」
「イタズラしちゃったからね、お詫び」
帰ったらまたお仕事だろう。
なんていったって忍使いの荒い武田軍。易々とお休みがいただけるわけもない。
ぐいっと、腕を引かれた。
反動で後ろを振り向けば、
「ねぇ、城まで真っ直ぐ帰る気?」
ニィッと笑う佐助。
他にどこに帰るというのだろう。
思ったことをそのまま問い返せば、佐助はますます笑みを深める。
「寄り道して帰ろうぜ」
……。
「幸村様に言いつけるよ」
素直に行きたいと言えないのは、私のよくないところ。
でもそれすら見抜いて……いるかどうかはさておいて、佐助は言うのだ。
「もうちょっとくらい、一緒にいさせてよ」
腕を掴んでいた手がするりと私の手を包んで、導く。
ずるい。
一緒にいれて嬉しいけれど、上手くやり込められて悔しい。
言葉の代わりに、ぎゅっと手を握り返す。
むすっとした顔を作る私に、彼はやっぱり笑いかけるのだ。
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2008.12.14