夢話-夢小説の間-





誰か何とかして








 常識人の皆無な武田軍。
 一例としてあげるならば、一国の主と殴り合いしちゃう家臣……を、尊敬の眼差しで見つめる部下たち。これってどんだけなのあんたら、とか突っ込んだら負け。
 でもって、唯一の良心、かつ常識を預かる俺様としては、これ以上変態は増えて欲しくない。
 ないのだが。
 誰が言ったもんなんだか、『類は友を呼ぶ』とはまさにその通りで。

「幸村様」
「おぉ、殿!」

 最近新たに徴兵を行った結果、集まった中で殊更優秀な実績を収め、大将の目に留まって旦那の部下へと相成ったこの女――そう、驚きなことに女――たる変態が武田に増えた。
 もういい加減にしてくれとか、忍の分際で口から出そうになってしまうわけだが、出かけたそれを飲み込んでいられるあたり、俺様は優秀な忍なのだ。
 これはこれ、それはそれ。
 分別は大事だ。……分別しなきゃやってらんないとか、思ってないない。

「如何なされた?」
「えぇ、町で団子を買いまして。お手合わせを願おうと思うておりましたゆえについでで持ってきてしまいました」

 真田の旦那に対してはいたって普通の部下である。
 旦那に言わせれば、「殿は女人というよりまさに武士!気負いせず話せるでござる」と、本来ならば女に対して非常に失礼極まりない物言いをしつつも、名言である『破廉恥』を一言を発しもせず付き合っている。
 その点で考えればある意味見事である。大将の言葉を借りるのならば、まこと天晴れ。
 女のように柔らかい口調ではあるが、本人の言動、気質、その他諸々を総合しても、確かに女に入れてしまってはむしろ女そのものに失礼であるのが彼女である。
 生まれてこの方初めて見る部類であるし、もしや新しい人種ではないかと思えるくらいだ。
 正直言おう、関わりたくない。

「佐助、茶だ!」
「はーいよっと」

 だが、主である旦那に言われてしまえば、ヤツの前に姿を現さなければならないのは必然。だって仕方がない。ヤツも俺様も旦那の部下なのだから。

「佐助殿、茶は三つで頼みまする」
「……へーいへい」

 ひとつは旦那、ひとつは彼女、ひとつは……俺様の分。
 忍と肩並べてお茶って。
 初めて言われたときは面食らったものの、真田の旦那が「おぉ!そうであるな!佐助も共に食そうぞ!」と言い始めれば、そこはそれ。肩を並べて茶をすするしかない。
 そして俺様が彼女を、を変態だと言い切る由縁は俺様に対しての態度。

「相も変わらず可愛らしい御仁ですね」

 ……コレである。
 無条件にぞわりと背中を這う悪寒。
 男が可愛いとか言われても全然嬉しくない、というかその恍惚とした笑みを心底止めて欲しい。
 具体的に言い表すならば、男が愛しい娘を見ながら紡ぐような表情で、声音で言うのだから、勘弁して欲しい。
 俺様ってば表情豊かで飄々としているのが売りの忍ですから、もちろんのこと嫌悪を隠しもせず顔に出すわけなのだが。

「その様なお顔も、まこと、お可愛らしい」

 ……本気で死ねばいいと思う。
 一回無表情で通してみたこともあるが、大変な事態になった。いや、アレはいい、もう思い出したくもないというかなかったことにしてください本気でごめんなさい。

「幸村様は本当によい忍をお持ちで羨ましい限りでございます」
「そうでござろう!佐助は忍の中の忍でござる!」

 だったら、忍の中の忍にお茶を入れさせるなんて小姓みたいな仕事させないでくれ。
 ってか、何で真田の旦那は気付かないんだ、この女の異常性に。すごい顔で見られてるから、横見ろ横!俺様を褒められて嬉しいのは分かったからその横のとんでもなくアレな、形容しがたいヤツを見てくれ。
 だが、忍の立場とは悲しいもので、面と向かってそんなことを言うことすらできない。
 いや、武田軍なら言っちゃっても全然平気なんだけれど、言っても全然気付かないのが武田軍だ。
 むしろお前何言ってんの、くらいの純朴な目で見られるという究極の羞恥に耐えなければならない事態になる。

「佐助殿、如何なされた」

 にこにこと、それはもう輝かんばかりの笑顔。
 それに呼応するかのように背中を走り続ける悪寒。

「や、茶ぁ、淹れてきますねっと」

 変態に関わっちゃいけない。そう、いけないんだ。
 関わるだけ無駄。考えるだけ無駄。触らぬ神に祟りなし。

「むぅ、何かあったのか?」
「幸村様が直球でお褒めになるから照れられたんじゃないですか?」
「む、そうか、だが事実だぞ!」
「えぇ、佐助殿は実に優秀な方です」

 俺様の背を追いかけるように褒め言葉が放たれている。
 だがしかし、なんだこの旦那とヤツとの格差は。
 まるで火鉢と氷を交互に当てられるような気持ち悪さ。
 毒でも入れてやろうかと思いながら、実際は恨み辛みを込めて茶を淹れる。
 運んでそれをすすった後、

「佐助殿、我が家に嫁に来ませぬか?」
「行きません」

 これが昨今の日常になりつつあるこの現状を誰かどうにかして欲しい。
















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2008.12.14