「今日の飯なぁに?」
『開口一番それかい。今日はハンバーグ。ゆっきー来るんでしょ?』
「さっすが、わかってるぅ」
『はいはい、料理中だから切るよ』
返事も待たずにプツッと切れた携帯に苦笑して真田の旦那振り返る。
「ハンバーグだってよ」
「真か!?」
途端に目を輝かせる旦那にも苦笑する。ったく、いつまで経っても子供舌なんだよなぁ。も旦那に甘いんだから。
真田の旦那が今にも走り出しそうなのを、襟首ひっつかまえて、歩く。
「なにをする!」
「まだ作り途中だから走ってっても食えないぜ?むしろに叩き出されちまう」
「むぅ。…………前から不思議に思っていたが、佐助は何故姉上を呼び捨てるのだ?」
「ん?んー」
なんでと聞かれてもな。
は俺様の一個上の姉。
手前味噌だが結構可愛い。
ただし、服装やら化粧やらをきちんとすれば、の話。
家でも外でもTシャツGパン。気前がよく大雑把と言う男らしい性格も相まって、未だに彼氏は出来た試しがない。
ま、安心だけど。
って、なんの話だっけ。
旦那の視線に、あぁ、と思い出す。
「なんだろ、呼びやすくって」
「あのような素晴らしい方はそうそうおらぬ!不敬に当たるぞ!」
「いいんだよ。も気にしてねぇし」
素晴らしいって、そりゃいい姉だとは思うよ。両親が共働きの家だから実質二人で育ってきたようなもんで、家事全般が指揮っている。俺様も手伝うけど、正直頭は上がらない。
「それに仲がいい証拠だろ?」
「まぁ、そうかもしれぬが」
まだぶつぶつ言っている旦那を背に家のドアを開ける。
旦那は古いんだよなぁ、色々と。
「ただいまー」
「お邪魔致す」
「おかえり佐助、ゆっきーいらっしゃい。ナイスタイミングだよ、二人とも。手を洗ってうがいしてきな」
ひょこっとキッチンの方から顔を出して、またすぐに引っ込む。
料理中に火元から離れんなって言ってのにききやしねえ。
手洗いうがいを済ませ、リビングを覗くと、確かにタイミングはバッチリだったらしい。
既に飯、味噌汁、ハンバーグ、サラダが机に並べられていた。
いただきます、と幼稚園児のように手を合わせて箸をとる。
「殿は佐助に呼び捨てにされても構わぬのですか?」
「ん?うん」
きょとん、としたあとは即答した。
改めて聞かれるとちょっと困るのよくわかる。さっきの俺様と一緒だ。
「ほらー、言った通りでしょ」
「むぅ」
何が納得いかないのさ。
頬にデミグラスソースついてるし。
「つーかひとんちで飯食ってんのにもう少し行儀よく食べらんないの?」
「ぬ?」
「ソースついてるよ、ゆっきー」
「、俺様やるから身を乗り出さない」
「はいはい。佐助はゆっきーの世話焼き好きねぇ」
「うっさいなぁ」
いっつも先に旦那に世話やこうとするのはそっちじゃんか。
「佐助!姉上に向かってなんという態度だ!」
「あはは、いつものことじゃん」
「そーそ、いつものことでしょうが」
何回うちでそのやり取りしてんだよ。
「ゆっきー、私が佐助に呼び捨てされてれの気になるの?」
食後の食器洗いを押し付けられたからキッチンで皿洗いしていれば、そんな会話が聞こえていた。
バレてやんの。
まあ旦那わかりやすいし、あれじゃ誰でも気づくよな。
俺様も面と向かって聞いたことないか少し耳をそばだてる。
「年上の方は敬うべきだと思いまするが…」
旦那の真面目な回答に、ふぅんと適当な相づちが続いた。
「ゆっきーはさ、生まれ変わりって信じるタイプ?」
「生まれ変わり、でござるか」
また突飛もないこと言うねぇ、うちのお姉さまは。
「輪廻転生ってやつ。
それでね、前世で恋人同士だと生まれ変わって家族になるんだって。もうずっと離れませんようにって。
私ね、それ信じてんの。だから佐助に呼び捨てにされるのは好きだよ」
……聞こえるように言ってるなら恥ずかしいこと極まりない。
もー。
そういうこと言われたら照れるでしょうが。
「…………破廉恥でござるっ」
「破廉恥じゃなくってロマンティックって言ってよ。ゆーしー?」
ほーんと、ロマンチックにも程があるよ。
……あんな風に思われてるなんて意外だけど正直嬉しい。
が前世の恋人だったら……、ま、悪くないな。のそばって落ち着くし。
話を聞くのに夢中だったのか、手が止まっていたらしい。
ヤッバイ、水道費かさむ。
慌てて残りの食器を洗おうとすれば、
『ねぇ佐助、生まれ変わってもずっと一緒だよ?』
なにか、言われた気がして顔をあげる。
リビングには変わらずと旦那が談笑していた。
あれー?っかしいなぁ。
「ー、今なんか言った?」
「ん?いや、呼んでないよ。空耳じゃない?」
「…………まぁいっか」
とにかく洗い物を終わらせなければ、とスポンジを握る手を動かした。
生まれ変わっても君の傍に
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2010.1.30