夢話-夢小説の間-





さくらもち








 桜が舞う。
 今年も桜が見れたなぁなんて呑気なことを考えながら、上田城に降り立つ。といっても主の元にすぐ向かうわけでもなく、俺様が向かった先は厨房。
 髪を掻き揚げて、ふっと表情を緩めた。
 気配を消して、足音を消して、その背後に忍び寄る。

「なぁにしてんの?」
「うっひゃぁっ!!」

 まさに飛び上がるという勢いで、目の前の女の子は驚く。
 その様子にクツクツと笑ってやれば、真っ赤にした彼女が振り返る。その一生懸命な顔にまた噴出しそうになる。

「佐助殿!!いつもいつも背後から忍び寄るのはやめていただきたいと申し上げているでしょう!」
「はいはい、でなにしてんの?」

 聞いてないし、と拗ねたように呟いた声ももちろん聞こえている。俺様がちゃんの声、聞き逃すわけないじゃん。
 それでもにっこり笑ってやると、やれやれというようにため息をつかれる。その顔も、結構好きだ。
 
「桜餅です」
ちゃんのほっぺが?」

 ぷにっと触ってやると本当に桜餅のようなもち肌で、「柔らかくて気持ちいいなぁ」と呟けば「佐助殿!婦女子の肌に軽々しく触らないでください!」と言われる。けどはたかれることはなく、むすっとした顔を作るだけだ。

「かぁわい。どしたの急に、桜餅なんて」
「……幸村様が庭の桜を見上げていたと思ったら急に所望していらしたんです。千登勢さんがお休みなので今日はわたくしが」
「へぇ〜」

 まぁた旦那は……あのお人、本能で動くからなぁ。
 にしても、ずるい。いや、甘いものが好きってわけじゃないし、食に好みを持ってるわけでもない。ただそれがちゃんが作ったものって言うだけでそう思うんだから、結構重症だ。

「味見、なさいます?」
「へ?いいの?」
「間違えました。毒見なさいます?」
「わざわざ言い直さなくていいって、どっちも変わらないし」

 差し出された桜餅をひょいと摘まんでいただく。口に含むと甘いあんこが広がる。でもそこまで甘いってわけじゃなくて、俺様好み。
 へへ、旦那より先にもらえるなんて、ついてるな。
 別に毒なんて入ってるとは思ってもいないし、比喩的な意味でも不味いわけがない。なんたって好きな子が作ったもんだしね。泥団子でも食べれる自信あるよ、俺様忍だし。

「ん、おいし。でも旦那に出すんならもっと甘くしても平気だぜ?」

 言うと何故か嬉しそうに笑う。いろんな笑顔を持つ彼女を見るのは好きだ。俺様にはないから、惹かれるんだと思う。

「佐助殿、報告はこれからですか?」
「そ」

 いつも報告に行く前にここ寄ってるからか鋭い。
 でも報告よりも大事って事で、許してもらえないかなー。ちゃんとお仕事はお仕事でしてるし。

「ではこちら、幸村様用ですのでお渡し願えますか?」
「え、旦那用?」

 差し出された桜餅に、じゃあさっきのは?と尋ねると笑顔でかわされた。
 もし、さっきのが俺様のためだけに作られたって言うんだったら、ちょっとばかし期待してもいいのかねぇ。

「ねぇ、ちゃん」

 桜が舞う。
 特に桜になんて思い入れはなかったけれど、今年ばかりは花より団子の旦那に感謝、だな。

「来年も、さっきの作ってよ」

 来年の春もここでこうして彼女といられるかなんて保証はないけど、望むくらいは勝手だろ。

「かしこまりました」

 ふわりと、笑う彼女は美しかった。









+++あとがき+++
私の住むとこでは桜の季節は過ぎ去りそうですが、珍しく季節柄なお話。
泥団子、辺りがツボですw
※バックブラウザ推奨





2008.04.13