夢話-夢小説の間-





恋ではなく――








 私は猿飛佐助が好きだ。
 人間としてどうこうって意味ではなく、異性として好き。
 幸村様を見て笑う楽しそうな笑顔を見れば私も楽しくなって、お館様と幸村様の殴り合いの光景を目撃するたび眉を寄せる様も微笑ましくて、その低く響く声からつむがれる私の名前を聞いた日には卒倒してしまいそうになる。

 今日もほら、幸村様と仲良くお団子を食べている。
 ふとした瞬間、本当に嬉しそうに細められる目元に釣られて嬉しくなる。
 忍である彼はそんな私に気付いたようで、にっこりと他人行儀な笑みを張り付けてこちらを見る。そんな作った笑顔も、私は好きだ。

「なに笑ってんの、ちゃん?」
「いいえ、まるでご兄弟のようだと微笑ましく思うただけにございます」
「うむ、佐助は某が忍。某の家族も同然でござる」
「ちょっとちょっと、どこに忍を家族扱いするお武家様がいるってんですか」

 口ではそんなこと言いながらもその目は、口は、表情は嬉しそうだ。
 他の人から見たらただの呆れ顔も、私にはそう見える。
 だから私も嬉しくなる。

「ここにいるではないか!」
「ハイハイ、だったらオニーサンの言うこと聞いて団子は一日3本までにしてよ」
「それとこれとは別だ」

 ふいっと顔を背ける幸村様も、それに呆れてため息を吐き出す佐助様も本当に微笑ましい。
 ご本人たちが言うに、幼い頃からの関係らしいので無意識なんだろうけど。

「お茶、こちらに置いておきますね」

 堪えきれない笑いをクスクスと上品な笑いに変えてお茶を差し出す。

「お、あんがとさん」

 飲み干してある茶器を受け取って、佐助様に私もにっこりと笑顔を返す。
 ああ、今、この瞬間が幸せだ。
 それでも極力外には出さない。
 勘のよい佐助様なら気付いてしまうかもしれないから。

「失礼致します」

 すっと静かに、しとやかに。
 私は彼らから離れて茶器を洗いに台所へと向かう。

 私は貴方を見れるだけで幸せ。

 貴方は忍だから、幸せとか、恋とか愛とか、そんなこと言われても「なにそれ」って言うんだろう。
 忍に感情はない、とも言うんだろう。
 自他ともに認める忍の中の忍の佐助様だから。
 だから忍の貴方を、大好きな貴方を壊さないように、私はこの気持ちを土に還るその時までこっそり持っていと決めたのだ。

「ふふっ」

 所詮自己満、されど、自己満。
 でも私はそれがいい。
 だから、

「あんた、恋してるねぇ」

 朗らかな笑みを私に向ける旅人に、私は否と答えるのです。

「恋はしてません。愛してはいますけどね」











+++あとがき+++
最近短い夢ばっかじゃないだろうか……;
ええと、小ネタばっかり浮かびます、はい。これもきっと私生活のせい(マテ

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2008.05.29