夢話-夢小説の間-





知らぬが花








 緊張するときは、全員かぼちゃだと思えばいいというまじないがあった。
 それと同じくして。
 怖い上司の説教は、上司に面白おかしい格好を想像して耐え切れと何かで読んだ気がする。

 今、この場が実践の時ではないだろうか。

 目の前には半刻ほど説教を垂れる我が上司。
 本当にそろそろ止めて頂きたい、というか長、そろそろ幸村様に団子上げる時間なんじゃ、いや、団子を遅らせて怒られるのも給料減るのも長だから別にいいっちゃいいんだけれども。
 あ、変なことで現実逃避しなくても現実逃避できるなんて、意外とできるもんだな。

「お前、聞いてんの?」
「聞いてます」

 ぶっちゃげ聞いてませんが。
 でも長の小言は聞き飽きているから。
 始めは注意から始まって段々お小言になって、最後は愚痴だからね。

「ホント?大体お前はー……」

 あれ、今日はまだ続くんだ?
 長も苦労してるなぁ。
 まぁその苦労っぷりは結構見ごたえが合って、仲間内で一日長が何回ため息つくかなんて賭けてるけど。
 ちなみに一番の勝率は才蔵さんだ。さすが長い付き合いだけある。勝てないのは何か?予想ため息数の桁を上げすぎなのが悪いのか?いやしかし、長の苦労っぷりというか不幸っぷりは見ていて感嘆するほどなのだからやはりこちらが立てる予想数ぐらいため息をついていてもおかしくないものだ。

「……聞いてんの?」
「聞いてます」

 もちろん聞いてませんけど。
 長、仮にも忍頭何ですから部下の嘘くらいちゃんと見抜いてください。
 ぐだぐだと愚痴に移行している長の説教は何だかいつもより長い。将来ハゲるんじゃないか、この人。
 あー、何か飽きてきたなぁ。大体長ってもっと忙しいんじゃないの?やっぱり上司が可笑しな格好している様を想像してしのぐべき?
 しかし、可笑しいと言えど、例えばどのような?
 可笑しいの王道と言えばなんだろうか。
 やはり女装か。
 いやでも、長って結構見目はいいから女装しても普通だなぁ。
 線は細いし、色気はあるし、ちょっと顔は男前だけど、髪下ろしたら誤魔化せそうだし。女に喧嘩売ってるな。

「休みぐらいくれたっていいだろっつーの。もしくは給料増やせ」
「長も大変ですね」
「でしょー」

 適当な相槌を打ってまた思考の波に戻る。
 あとなんだ?
 あぁ、衣装換え、とかどうだろうか。
 例えば長が幸村様の格好をしているとか……。

 ヤベ、結構ウケる。

 腹筋出した長とか、マジありえねぇ。
 でもあれじゃ赤すぎて忍べないよなぁ、流石に。
 今でも十分忍んでないけど。
 この際顔も売れてるんだから武将として頑張ればいいんじゃないだろうか。

 お館様の衣装でもウケるなぁ。
 プフッ、この人ッホント赤似合わねぇ。
 にしても良くこれだけ阿呆な考えを巡らせていて顔に出ないよな。自身が忍であることを誇らしく思う。
 というか、まだ終わらないのか。他にネタはないのか。
 
 あー、そういえば、こないだ才蔵さんが兎獲ってたな。

 猫耳ならぬ、兎耳、とかどうだろう。長耳がいいし。
 ……ブハッ、ヤバイ、コレはヤバイ!
 ただの、ただの変な、変質者!
 あ、コレは流石の忍隊員一の能面を誇っていてもきつい。表情変えない鍛錬にいいな、コレ。今度部下にやらせよう。

 ふぅと満足げに息を吐いた長に気付いてちらりと彼を窺う。

「今日はこんくらいにしといてやるけど、次やったら承知しないぜ」
「はっ」

 言う割りに満足げなのは、きっと説教という名の愚痴で鬱憤が晴れたからだろう。
 こちらとしても本来なら仕事をする時間を妄想と休憩で過ごせていい時間が過ごせた。うん。
 ……ところで何ゆえ怒られていたのだっけ。

「おい、今日もこってり絞られたな」

 樹から気配なくぶら下がる才蔵さん。
 一ッ飛びして横手の枝に座らせてもらう。

「何刻ほどかかったんですかね?」
「一刻半」

 ほぅ。そんなに経っていたのか。
 ということは、長はその間ずっと話していたわけで。

「よく長も喉嗄れませんね」
「お前もそんだけ付き合わされてよく持つな」

 佐助が懐くわけだ、とボソッと言われてはて、と首を捻る。

「懐く?長が?」

 犬猫じゃあるまいし。

「何考えてんだかわかんないけどずっと聞いててくれるのあの子だけなんだよねぇ、もう、俺様ってホント部下に恵まれてる!だと」

 え、何か、そんなに?
 脳内の妄想があちらへ伝わらないのは至極よろしいことだとは思うが、申し訳ないような気がする。
 愚痴、今度からちゃんと聞いてさしあげようかな。
 説教はもちろんのこと聞く気はないんだけど。

「お話くらい、言って下さればいつでもお付き合いするんですけどね」

 サボれるいい口実だし。
 とういか、もしや説教というのは長の口実で実は愚痴を吐き出したいだけなんじゃないだろうかと思ってしまった。
 まぁいい。思考は自由だ。どうせばれやしないのだから。
 こちらを見て、才蔵さんがニヤリと笑う。

「伝えとくぜ」

 何を。と返しかけて、あぁ、さっきの言葉のことか、と思い直す。

「ところで才蔵さん、いい修行を思いついたんですが」

 この後、長に説教という名目すらつかなくなった愚痴を聞かされる機会が増えた。きっと才蔵さんが可笑しなことを吹き込んだに違いない。まぁいいけれど。
 あと。
 長を見る度に吹き出しそうになったり、顔が引きつったりする部下も増えた。こっちもきっと才蔵さんがいけないんだろう。
 そんなことをぽやぽやと考えていると、

ー」

 長からのお呼び出し。
 今日も長い愚痴を聞かされるんだろう。
 最近はお茶とお茶請けが出る、と対応が良くなってきたから結構役得だと思う。
 そんなこんなで今日も長の下へ馳せ参じる。
 姿を現した途端、僅かに、本当に僅かに眦を下げる長に才蔵さんの「懐くわけだ」という言葉が耳に蘇った。
 まぁ、長が猫や犬だったら飼いたいかな。











+++あとがき+++
才蔵さん初登場♪
拙宅の才蔵さんは悪戯好きですw
なんかの話でウサ耳が出たんですよ。そこから派生したとんでもない妄想でしたーw
※一刻=現在の2時間=佐助3時間ぶっ通しお喋りw

※バックブラウザ推奨





2008.07.17