夢話-夢小説の間-





茄子天とビール





 庭で鍛錬をする自称徳川家康を背景にツイッターでタイムラインを眺めていた時だった。
 今日は、どうやら彼の命日らしい。
 いや、詳しく言うと今庭にいる彼ではないのだろうが。
 ちらり、目をやる。
 彼が鍛錬しているとき、何故かいつも追い詰められたような目をしている。
 近づけない。
 そんな雰囲気だ。
 変なものを背負い込む気はないので詳しく事情は聞いていないが…、いろいろとあるのだろう。
 タイムラインに目を戻す。

「ふぅん…」

 天ぷらが好き、というのは聞いたことがあったけれど。
 ああ、これももちろん自称の方ではなく歴史の、であるが。
 再度、自称徳川家康を見る。
 黄色いパーカーのフードが、彼が動くたびに揺れる。
 それがぴたり、止まって。
 彼が不思議そうな顔でこちらを向いた。

「どうした?ワシを見てるなんて珍しいな」

 自称戦国武将は人の視線に敏感らしい。
 普段無視してばかりなのも理由に入るかもしれないが。
 いつもと違う様子に、私が何か言いたいのかも、と思い至ったらしい。
 外れてはいない。

「……茄子、好き?」
「へ?」
「ビール、飲めた?」

 目をぱちくりと瞬かせた彼に続け様に尋ねた。
 明らかに困惑した様子を見せる彼。

「ええと、茄子は好きだぞ、びーる?も飲めるが…」

 じゃあ、決まり。
 そう呟いた私に、彼は首を傾げて見せた。

「お昼は茄子の天ぷらとビールね」
「ああ、了解した、買い物行くか?」
「ううん、出前する」

 他にもあれば、と天ぷら屋さんのメニューを差し出した。

「何かあったのか?昼から酒とは珍しい」

 メニューを受け取りながらとてもとても不思議そうにする彼に、貴方の命日だから、というのもおかしな話で。
 そもそも、それが発端だけれど結論とは違うと言うか。

「好きな物、見つかったから」

 食べたいものも特に思いつかなかったし。
 だから、なんとなく、それにしてみただけ。
 そうしたら何故だか彼は照れ臭そうに笑って、

「…ありがとう」

 お礼を言ってきた。
 彼の頭の中で思考がどう巡り巡ったのかわからないが、衣食住を提供するのは今に始まったことではない。
 今度は私が首を傾げると、なんでもない、と言われたけれど、ニコニコとした顔で何でもないと言われても、そんなわけがあるか、と思う。
 じっと見つめていれば、観念したかのように視線をそらして口を開く。

の傍は…、穏やかな気持ちになれるな、と思ったんだ。
 だから、…共に在れる今と、に感謝を」

 なんて、恥ずかしいセリフ。
 聞いたこちらの頬が火照る。
 春の陽気に、赤い顔した男女二人、だなんて、どこの少女マンガだろう。
 照れ臭いやら恥ずかしいやらで、あ、だの、う、だの、よくわからない言葉が漏れた。
 その様子に吹き出すようにして彼が笑うものだから。

「…追加、いらない?茄子天だけになるけど」
「ああ!いる!いります!」

 仕返しにメニューを取り返そうとしたら、ばっと身を翻されて死守された。
 その必死の様子に、私も吹き出して。
 笑い合う私たちに、変わらず春の陽気が降り注いでいた。












+++あとがき+++
初権現夢。すごく、爽やかです、なんででしょう…?
最近大谷さんばかりで爽やかさとかなかったせいでしょうか(失礼)
ツイッターで4月17日が権現様の命日と聞いて。
彼の好物が茄子、にちなんで今日は茄子の日だと某ビール会社のアカウントさんが言っていたので。
茄子天でビールになりました。

※バックブラウザ推奨





2014.04.17