夢話-夢小説の間-





真田幸村を巡る攻防





「うぉおおおやかたさばぁぁぁああっ!!」

 今日も今日とて吹き飛ばされていく真っ赤な彗星(違)真田幸村。
 あのキュートな顔が堪らなくいいね。
 何と言うかこう、

「お持ち帰りしたいなー」

 スッパーンッツ!!

「……あのさ、スッパーンって小粋な音を出していいのはハリセンだけだと思うのだよ、猿飛佐助くん?」

 現在進行形でだらりだらりと私の頭からは真っ赤な真っ赤な幸村にも負けないそれはもう真っ赤な血がだらだら流れ出している。
 それもこれもハリセンのように小気味よい音を立てて私の頭を殴ってくれちゃった真田幸村のおかん、別名真田幸村親衛隊もとい、日の本一忍べていない出過ぎた忍猿飛佐助のおかげだ。

「ハリセン?何それ、俺様聞いたこともなーい♪」

 あはー、と爽やかに笑いながらどす黒い瞳を光らせるヤツのその手には黒光りの筆頭マークのレコード盤。さすけ、なんて自分の名前超汚いひらがなで書いちゃって何を主張したかったんだろうね。筆頭ラバーってこと?真田幸村親衛隊の癖に。
 そんな猿飛佐助に私はにっこりと笑いかける。

「ハッ、死ね」

 大して猿飛佐助も私ににっこりと笑いかける。

「アンタが死ね」

 うふふ、あははと殺気を飛ばしながら私たちは笑いあう。
 ずざざっと周りが引いている。しかし私たちのブリザードを引き起こせる冷戦並みの笑い合いは昨今お館様と幸村の熱い殴り合いと同等の頻度で勃発しているからして、そろそろ慣れてきてもいいものだと思う。
 後にどどどどど、とものっそい地響きがして、赤い塊が私たちに突進してくる。

「ずるいぞ、佐助ェええええぇぇぇー……!!」

 帰ってくるなりドップラー効果を聞かせながら真田幸村くんは私たちの前を勢いよく通り過ぎていきましたとさ。
 そしてびよーんと一ッ飛びで帰ってくる。
 どんだけな背筋なんだろう。是非夜這いでもしてこっそり服を剥いでみようかな、なんて。

「お主ばかり殿と仲良くしおってぇぇぇええ!!」

 ギッと猿飛佐助を睨みつける幸村の顔は少々赤くて、可愛いなと思うのだけど、その前に発言に突っ込みを入れなくてはならない。

「あっはっは、だってさ、猿飛佐助くん?」
「あっはっは、お断りだよねぇ、ちゃん?」

 私の手は腰の刀に、猿飛佐助の手はレコードを持ったまま、ふたりでにこにこにこにこと笑い合う。ブリザードが激しくなって、その場にいる生き物は地上、上空、地中含めて私たち三人以外は撤退したようだ。
 ブリザードが効かないのは今のところ幸村だけ。お館様でも逃げていくのに、幸村だけは平然と私たちに絡んでくる。そういうところが大好きだ。

「む、殿!一体どこでこのようなお怪我を!?」
「幸村っ」

 私を気遣ってくれるのだね!?
 愛いやつめ♪
 抱きつこうとしたら首根っこをガッと掴まれ、息が詰まる。こんなことするのはやつしかいねぇ。

「なぁにしようとしてるのかな、うぅん?」
「佐助!殿の首が!首が絞まっておるだろうが!」
「へーきへーき、殺しても死なないよ、これ」

 反論しようにも首が絞まって今にも意識が飛びそうだ。
 ……………なんて、カワイイこと言っているようじゃこの最強おかんの相手は勤まらない。可愛い幸村に抱きつこうという行動なんぞ出来るわけもない。
 後ろ手に腕を取ろうとすれば器用にかわされ首を絞められ続けるが、甘い甘い。第二撃とばかりに私は腰から身体を回転させて回し蹴りを放つ。流石に人体の限界だったのか猿飛佐助の手がぱっとはなれて首が自由になる。

「ちぇ」

 小さく言ったつもりかわざと聞かせるつもりかは知らんが聞こえてんぞ、テメェ。

「く、殿!某も鍛錬のお相手をして頂きたく!!」

 今のやり取りを鍛錬だと思っているんだろうか。ちなみに絶え間なく私の頭からは血が流れていることは既にスルーの領域なんだろうか。人間身体に流れる血の三分の2だか1だかなくなると死ぬといわれているからに、そろそろ手当てをしないとマジでヤバイと思うのだが、それでもどこまでもお馬鹿な君が大好きだよ、幸村。

「ハッ、殿は負傷中でござったな!
 失礼仕った!手当てをしましょうぞ!!」

 私の腕をガッと掴むと、幸村は雄たけびを上げながら走り出す。佐助はついてくるでないぞ!と幸村が付け加えたところで私は我に返る。
 突然の暴挙だったが、引っ張られながら後ろを見ると猿飛佐助の唖然とした顔が見れた。いい気味だったのであっかんべーくらいしておこう。瞬間、ビキィッと青筋立っていたのが額当ての外からでも見えた。
 くけけけ、いい気味。

「その、殿、あまり佐助と仲良くしないでいただきたい」
「仲良くなんてないよ、全然、これっぽっちも、ミジンコ並に」

 ぐるぐると包帯を頭に巻かれながら、そんな言葉が降ってきた。発信源は言わずもがな幸村。まだ私とあの馬鹿猿がなかよしとでも思っているらしい。よく気付かないよなー。気付いていて放っておいているのなら天才だよ。黒いよ、おなか真っ黒だよ。でも好きだよ。

「しかし……」

 渋る幸村に私は嬉しくなって笑う。
 あの猿と仲良くするなってことは、つまり妬いてくれてるってことだ。無意識でも意識的にでも、彼の頭の中では私>猿の不等式が成り立っているのだ。
 私は勝者の笑みを天井裏へ向け、次いで幸村ににっこりと笑いかける。

「そんなことより私は幸村ともっと仲良くしたいな」
「っ!某もでござるよ!!」

 きらきらと光る笑顔はやっぱり太陽。
 幸村には好きって言うより仲良くしたいって言うほうが効果的であることは既に証明済みさ。

「ふふふ」

 うふふ、あははと笑う私たちの周りには先程とは大違いでブリザードではなく花が舞い散っている。
 天井裏から殺気にも等しいくらいじめじめした空気が漂ってくるけれど………ふふん、私の勝ちだな猿飛佐助。



 異界鬼姫  勝利





+++あとがき+++
ただ、佐助との掛け合いがしたかったというワガママにより生贄になった幸村夢だったりします♪

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2008.03.26