認めない
「私は認めんぞ、真田幸村」
突如、そんなことを言われ、瞠目した。
何か彼女に対し、無礼なことでもしてしまっただろうか。
この数日間の出来事を総じて頭の中で繰り返してみるが、いつもと変わらないはず、だ。
だが、依然として彼女――殿は俺の手を握り締めたまま、その握った手から視線を外さず、こちらを見ようともしない。誰か通りかかりでもしたら、何と言い訳をすればよいのだろうか。べ、つに、やましいことをしているわけでもないが、その……その、恥ずかしい、のだ……。
い、いや、別に嫌というわけではないのだが、しかし、やはり殿も武将ではあるが女人でもあって、その手は鍛錬によりできる造り、なのだが、俺よりはもちろん柔らかく。
ひ、平たく言うと、は、破廉恥で、ござる……。
だが、それを口にしようものなら、そんなつもりではなく触れてきている彼女は呆れるだろう。それだけは、嫌だ。
破廉恥、という言葉を飲み込んで、なんとか口を動かす。
「ああああの、殿、そ、某が何か?」
よ、よし!破廉恥と発しなかった。某はやりましたぞ、お館さばぁああ!
「い゛っ」
は……?
小さな声に視線を下に落とせば、握り締められた手を、思い切り、握り返してしまっていた。
し、しまったぁ!つい勢いで手の力を込めていた!!
「すすすすまぬ!」
「……握りつぶされるかと」
「ぬぁあああ!申し訳ない!!」
慌てて力を緩めるが、殿が放してくれる気配はない。こ、これは、一体、どうしたいのだろう、か!?いちいち佐助を呼びつけるわけにもゆかぬし、第一まだ殿から理由を聞いていない。
「殿、一体……?」
困り果てて声をかけるとキッと睨みあげられた。
な、なんなのだ!?
「貴殿は属性持ちであろう」
思っていたよりも静かな声が聞こえて、瞬きを繰り返す。
殿は同じ問いを二度繰り返し、俺はそれに頷いて答えた。
確かに、属性持ちである。
お館様と同じ炎属性っ。身に余る光栄!!
「属性は?」
「炎でござる!」
「納得いかん」
「何故でござるか!?」
反論すれば眉間にしわが寄っていく。
ぎゅうと手が握り締められ、彼女は震える唇を開いた。
「なんで炎属性のヤツが冷え性なんだ!!」
私は認めない!
きっぱりとした主張が躑躅ヶ崎館に響き渡った。
オマケ
「佐助は闇属性だが手は暖かいでござる」
「あれは別にいい、母の手は暖かいものだ」
「むぅ、なるほど」
「待って旦那!何に納得してるの旦那ァ!!」
+++あとがき+++
拙宅の幸村は冷え性で、佐助はぬくいですw
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2008.12.14