夢話-夢小説の間-










 週末になって真っ先に会いに行くのは彼の元。
 といっても実物じゃない。
 実物じゃないって言うのは写真とか人形とかそういうのじゃなくて、画面の中。
 彼はゲームの中の住人なのだ。

 会いに行くっていうのは正しい表現じゃないって分かっているが、私からしたら会いに行く、がいい。
 プレステの電源をつけて、もどかしいほどゆっくりに感じる起動画面にそわそわしながらコントローラを握る。

「今日は何しよう」

 天下統一、は、もうした。
 対戦、するにも相手がいない。
 ミニゲーム関係は制覇したし、レベルを上げようにも既にマックス。

「これぞ愛の力ッ」

 自分の愛力に酔いしれているといつの間にかオープニングが始まっていて、桜をバックに子猿と酒飲む寂しい男が一人いた。
 容赦もなくスタートボタンでスキップしてモードを選ぶ。

 ストーリーをしてもいいんだけど、出てくる彼の同郷のナイスバディ忍に嫉妬を禁じ得ないので気が進まない。
 まったくもって報われてないのでまかり間違っても結ばれることはないと分かるが、やっぱり妬ける。
 外伝ではもっと仲良さげだしね!

「上田城でも襲撃しよっかな♪」

 彼を操作しながら彼に会えて、最高のステージだ。
 隠し通路は空中散歩に最適だし。
 自由合戦で上田城襲撃戦を選択して、キャラはもちろん、猿飛佐助。

 ……………。

「心の中で名前呼ぶのも恥ずかしいとか、マジ重症だよ」

 どうかしている、ホント。
 でもおかしいくらい彼が好きなのだ。
 造形的に言えば、ムービーの幸村とか伊達宗とかKGのがかっこいいとは思う。
 思うのだがしかし、私は彼が一番好きなのだ。

 ムービーのときにふわふわ靡く鳶色の髪。
 整った顔立ち、ステレオから聞こえる低音の声。
 現実をそれと受け止めて生きるその姿。
 忍なのに表情豊かで……ていうか、無印のウインクとか反則だし。

 私もまだ若いし、あとちょっとくらい二次元に惚れてたって行き遅れにはならない。きっと。
 どうせ飽きっぽい私のことだ、数年後には適当な方と結婚してそろそろ子供でも、とかなってるに違いない。
 だから今はこれでいい。
 私の中で、猿飛佐助と言う存在は喜びの象徴だった。








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2008.05.18