怒
斜め上を見上げると見える横顔。
鳶色の髪が風になびいて、細められている瞳には呆れの色が全開だ。
それでもその顔立ちは整っているとしか言い表せなくて、つい見入ってしまう。
BGMは野郎二人の雄叫びと言うロマンの欠片もないものなのだが。
憧れの人、とでも言えばいいんだろうか。
いつも画面の向こう側にいた。
一番好きだった。当時の恋人と別れるくらい、好きだった。
どうかしてると思ったし、でも、それでもいいやと思ってた。
冷めてる冷めてると言われる私にしては結構熱狂的だと、自分でも思う。
手を伸ばせば届く距離に彼はいて、でもこの距離を壊すことが私にはできない。というか、どうしたらいいのか分からないと言うか。
長年思い続けていた彼からしたら、私は今日会ったばかりの女であって、それ以上でも以下でもないのだ。
「さっきから、なぁに?俺様の顔になんかついてる?」
呆れた顔に更に呆れの色を滲ませて彼は尋ねてくる。
そんな顔をしてもきゅんとするほどかっこいい。
この気持ちをどうにかしてしまいたい。
神様はなんで私をここに連れてきたんだろう。
画面の向こう側なら、その越えられない壁に諦めもついたと言うのに。
彼の姿が目の前にあって、声が聞こえて、苦しいほどに愛しくて。
彼の存在を感じるほど私なんかじゃ不釣り合い。
思いっきり泣きたいような、叫びたいような、怒りたいような、気持ちが悪いくらいはっきりしないもやもやが込み上げる。
そっと視線を外して、暑苦しく拳を交わす熱い二人を見る。
空は青くて、小鳥も鳴いてて、雄叫びが響き合う平和なお屋敷の縁側。
それと対照的に掻き乱されて、不安定で、荒れ模様の私の心。
「……むかつく」
名付けようもない気持ちを苛立ちと片付けて小さく吐き出した。
でも吐き出して、思いの外それはしっくりときた。
そう、むかつくのだ。
訳も分からないまま私をここへ寄越した神様も、悶々としているだけで結局なんにもできない私も、そんな心中を知らずますます私を虜にしていくこの猿飛佐助と言う男も。
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2008.05.18