夢話-夢小説の間-










 私のいたところに戦の文字は欠片もなかった。

 そりゃ、新聞やテレビで他国の内争やら紛争やらがあるとは知っているけども、それはどこか遠いところの話。
 身近でなんて、大手スーパーやラーメンのうまいところの激戦区だとか、そういう至って平和なものなのだ。
 だから、戦と言われても、ピンと来ない。

 確かに理念や理想を賭けた男の戦いなんだろうけど、極論ただの人の殺しあいじゃないか。
 この時代の人たち、戦争をスポーツ大会かなんかと勘違いしてやいないだろうか。

「辛気臭い顔で見送んないでくれる?」

 深々しいため息が降ってきて、見上げれば彼がいる。
 ゲームの中と同じ格好。
 迷彩服で、鉢金をつけているその姿は見惚れるほどかっこいい。画面越しのその姿よりずっと、かっこいい。
 でも、その格好するってことは、戦に行くってこと。

「別に、元からそんな顔だよ」
「はいはいそーですか。俺様の前じゃいーけどせめて大将や旦那の前じゃちゃんとしといてよ」

 ちゃんとってどうしろって言うんだ。
 怪我をしたら痛いじゃないか。死んでしまったら、会えないじゃないか。
 戦地に行く人を送り出すのに、辛気臭くなるななんて私には無理な話だ。

 彼が帰ってこないんじゃないかと考えるだけで苦しい。
 哀しくて哀しくて、ほんと、自殺するかもしれないくらい。いや、自殺するわ。自信ある。

「あのさ、戦行くからって死ぬって決まった訳じゃないんだけど。馬鹿にしてんの?」
「……………保証かなんかあるの」
「俺様、忍だから」
「あなたは、」

 猿飛佐助でしょ、と続けようとして、やっぱり呼べなかった。
 いや恥ずかしがってる場合じゃないとは分かっているのだが、それとこれは私にとっては別問題なのだ。

「……あなたは、あなたでしょ。何でもそれで片付ける」

 忍だからなんだ。
 元を正せばただの人間で構成要素は主成分がタンパク質で、不死身なわけじゃない。
 ゲームと違って死んだらやり直しなんてきかないんだ。

「…………女の涙ってのは卑怯だねぇ」

 言われて泣いてることに気付いた。
 ぐしぐしと化粧も気にせず顔を擦る。たぶん相当酷い顔になってるだろう。
 鼻をすすればずびっと酷い音がする。
 女の涙なんて感化される方が悪いんだ。

 ため息をまたついて出ていく彼の背を、目に焼き付けるように見つめる。

「……いって、らっしゃい」

 出した声は掠れていた。
 頑張ってもご武運もいわないら、無事に帰ってきて。
 おかえりなさいと言わせて。
 彼は私の言葉に答えるように手をヒラヒラと振る。

「いってきます」

 帰ってきた答えに、また哀しさが募った。








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2008.05.18