夢話-夢小説の間-










 お館様が連れてきた一風どころか二風も三風も変わった女がいる。
 名前はって言うらしい。
 らしいってのは、本人の口から聞いたワケじゃないから。
 たぶん年は旦那と同じくらいで、外見は可もなく不可もないそんな子。
 けど、どうやらその子は、俺様のことが心底……………嫌いらしい。
 なんたって初対面に「むかつく」だもんね。
 俺様あの子になんかした?
 近くにいればいたで、ずっと睨んでくるし、なに?って聞くと顔を反らされる。
 話だって戦のちょい前くらいからやっとしてくれるようになったけど、それでもこっちから話しかけないと話さない。
 戦から帰ってきてからはまた前の状況に逆戻り。
 未だに俺様の名前すら知らないんじゃないの?

 こうやって考えを巡らせてると、別段他人に興味を持った試しがない俺様としては、自分でも驚くくらい彼女を観察していたことに気付く。
 ツンケンしている様子がどっかの誰かさんを思い出させるから、か?
 脳裏を同郷のくの一の姿が駆ける。
 ……元気にしてっかねぇ。

「佐助ぇ!」

 お、大将がお呼びだ。
 屋根裏部屋を伝って天井から大将がいる間に降り立った。
 速さは毎度新記録ってな。

「大将、お呼びですか?」

 見れば大将の他に何でか顔を赤くしている旦那と例のその子もいた。

「ほれ」

 ほれ?
 お館様が促す先にはその子がいて、珍しく慌てた様子で口をパクパクしている。

「なに?」
「あの、さ、さ……さ……」
「さ?」

 笹?いやここで笹が出てくる意味が理解できない。
 彼女は意を決したようにきゅっと唇を切り結んだ。
 ……え、なに、この空気。どんな暴言吐かれるんだろ。

「さす、さ、さすけさん、おかえり、なさい……」

 ――――え?

 言われた言葉を噛み砕くように心の中で反芻する。
 ああそうか、戦前のいってらっしゃいの続きってこと?
 てか俺様の名前知ってたんだ。
 そりゃお館様や旦那があれだけ叫べば知らないわけないか。

 ちらりとこちらを窺ってくるその子に何だか笑いが込み上げる。大方大将に何か言われたんだろう。

「ただいま、ちゃん」

 バカ笑いするのはよしとくとして、笑ってそう言えば、

「――ッッ!!」

 襖を弾き飛ばす勢いで部屋を駆け出していった。
 時々すっげぇ行動とるよな。

「どーしちゃったんですかね、あの子」

 急に飛び出していったその子の顔は真っ赤だった。
 あんな顔もするんだねぇ。

「はっはっは!若いのぅ。幸村も見習えぃ!」
「う゛、しょ、精進致しまするっ」

 そして旦那と大将はそのまま殴り合いに発展する。
 やれやれ、だ。
 呆れながらも胸の内に残った高揚した気分。
 そんときゃ気付かなかったけど、これが楽しいってやつなんじゃないかと後々思った自分がいた。








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2008.08.31