怒
いつからだろうか。
よくよく考えてみると始めっからってのが妥当かもしんない。
理由はともかく、出会ったその時から気になって仕方がなかった。いや、仕方がなかったってのはちょいと言い過ぎ?
始めは素直じゃなくて素直なところとか、俺様に暴言吐くところとか、かすがに似てるなぁ、と、まあそんな感じ。
その印象が変わってきたのは、多分、名前を始めて呼ばれたあの時からだ。
屋根の上でつらつらとそんなことを考えながら、雄叫びを上げて殴り合うお館様と旦那を傍観する。
その近くに彼女もいて。
出会った当初は肩口まであった黒髪も背まで伸びた。あれだけ伸びたんだから簪でも挿してみりゃいいのに、黒はまっすぐ背に落ち着いている。
無愛想だと思っていた表情は時を重ねるごとに段々と柔らかくなっていて、今は自然とほんのり笑みを浮かべていた。
あのやかましいお二方を見てるってより、彼女を見てる自分に気付く。
「やれやれ……」
口癖となりつつある言葉を口から吐き出した。
別に、何があるって訳でもない。
例えこの気持ちが俺様の予想した通りの名を持つ感情とやらであったとしても、だ。俺様の立場ってのは何も変わりはしない。
真田忍隊長、猿飛佐助。
それ以上でも以下でもない。
そいでもって、忍に感情なんか要らないってのも了解済みだ。
ま、一応俺様も人間な訳で、完全に感情を殺しきるってのは不可能なんだけど。それ言ったらお仕事にならないでしょ。
「お館様!幸村!」
遠くで声がしても、耳に届く彼女の声。
主の声よりもハッキリと聞き取れるなんて……こりゃ認めるべきかねぇ。
この感情を口にすることなんて一生ないだろうけど。
「!」
「殿!」
彼女を見て顔が崩れる大将と旦那を見て、その声に顔を崩す彼女を見て、胸に込み上げる苛立ちと言うか、苦しさと言うか、気持ち悪さはなんだって言うんだろう。
いや、何て言うかっていうのは、まあなんとなく認めちゃってきているわけなんだが。
大体俺様、あんな笑顔、向けられた試しがないし。
……いやいや、忍としてどうなのよ、その感想。
思わず天を仰いで肩を落とす。
「……………やれやれ」
ちらりと眼下を見下ろせば、談笑しているのが見えた。笑い声は弾んでいて、その輪に入れないと分かると……、うん、ムカつくかも。
何にって、相手が女だってのににこにこ笑う旦那も、彼女の頭に手を乗せて豪快に笑う大将も、こんなとこから見られてるとも知らないで俺様が見たことない笑顔を振りまく彼女も、……この気持ちを表す言葉を認めてしまってきている俺様自身も。
全部が全部、頭に来る。
そんな様子は一寸たりとも表には出さないけどな。
何たって俺様優秀な忍ですから。
あー……、でもやっぱムカつく。
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2008.08.31