夢話-夢小説の間-





らぶりーまいだーりん

〜思考回路がショートしました〜




 学園の兄貴こと、長曽我部元親はあたしの彼氏である。
 ヤンキーな顔して、眼帯をつけて、学ランの前をはだけて、おいおいおい、と突っ込みたくなるような格好だ。しかも、舎弟ですと言わんばかりのガラの悪い後輩やらなんやらがたくさんいる。
 友達はバリエーションに富んでいて、純情ピュアボーイや必殺ツンデレ、エロテロリスト、魅惑の腰などなどなど。何故か全員顔がいいのが不思議でしかたない。あれか。類友か。
 元親と付き合うようになってから彼らとも付き合いができて、今じゃ学校に来ると美男子に囲まれるという美味しい生活をしている。
 ただ、悩みごとが一つ。

「ねぇ、あんた元親の家に行ったことある?」

 ぶはっと飲んでたものを吹き出すのはエロテロリストこと猿飛佐助。ちなみにあたしの丁度前の席だ。
 ついでにいうとその前が必殺ツンデレ(必殺仕事人的なノリ)こと毛利元就。もっとついでにいうと、猿飛の吐き出した液体が毛利にかかって若干の大惨事になりかけている。
 ま、あたしには関係ない。

「な、なに、急に?」

 慌てて口を拭う仕草がエロい。というか声もエロい。まあとりあえずエロいのだ。さすが猿飛。

「いや、一人暮らししてるとは聞いたけど一度も見たことないと思って」

 普通連れ込みたがるもんじゃないの?
 そういうこと女の子が言っちゃいけません。
 ……今、猿飛と目と目で会話ができた気がする。

「言ってみればいいだろう」

 惨劇の被害者毛利が気だるげに言う。
 一応ハンカチを回してやる。ちゃんてハンカチ持ってるんだねと口を滑らせてしまった猿飛の脳天にチョップを入れておいた。
 毛利の使ってやらんこともない等と言う尊大な態度の裏には多大なる感謝が込められている……と思いたい。

「何て?あんたの部屋に連れ込んでとか?」
「ダメダメダメ!いや、彼女だからダメじゃないんだろうけどっ」
「誰もが越える壁よ」
「どんな壁だよ、毛利」

 結局休み時間内で解決することはなく、6限目の物理に 突入する。これが終われば放課後だ。
 言ってみるかぁ。言おうかな、うん。

「おう、!」

 放課後、元親が迎えに来てくれる。手を挙げて答える。

「はいさ、今行くよ元親。じゃね、毛利、猿飛」
「ああ」
「うんまた明日ー」

 クラスメイトに別れを告げてあたしは教室をあとにした。

「……ちゃん、あの部屋見たら何て言うだろうね」
「何か言える部屋か?」
「……毛利の旦那、正解」

 残念なことな彼らの呟きはあたしに届くことはなかった。
 元親と一緒に下校するのは最近の日課だ。
 スーパー手前の分かれ道がいつもの別れ時。じゃあなと行って歩き出す元親の袖を引っ張った。

「元親の家に行ってみたい」
「はあ!?なな何だよ急に」

 何を慌てることがあるんだろう。エロ本エロビデオなんでも来いなんだけど。むしろ見てみたい。
 元親のことだから機械とかプラモのほうが溢れていそうだ。

「ダメ、かなぁ……」
「いや、その、ダメかと言われたらそりゃ……っ、やっぱりダメだ!」
「えーっ、何で?毛利も猿飛も本人に頼めの一点張りでさぁ」
「聞いたのかよ!?」
「そりゃ、好きな人のことは知りたいと思うの当然でしょ?」

 て、そこで赤くなるなや。
 170を越えたタッパの男が気色悪い。
 でもそれが決め台詞だったようで、あたしは何度も何度も「引かない」「逃げない」「別れない」の3原則(?)確認する元親に何度も何度も相づちを打って、やっとこさ彼のアパートにたどり着いた。
 二階建てで横に連なる数約10部屋。以外と普通のアパートだ。何をそんなに怯えてるんだか。
 最後の最後に再び3原則を確認され、しつこいので元親から鍵をパクってさっさと開けた。

 ……誰かあたしにライフカードを下さい。

 ドアを開け放ったあたしの目の前にはピンクとフリルとぬいぐるみ、というワンダホーな世界が広がっていた。
 え、これ、何?何かのギャグ?
 だって、元親って、冒頭で説明した通りのヤンキーな顔に眼帯ではだけた制服だよ?どんな?これ、どんなどっきり?
 元親の方を向きたいのだけど金縛りにあったかのごとく身体は動いてくれない。
 何か、何かアクションを起こさなければ。だから誰かライフカード寄越せっつってんだろうがよ。
 フリーズしたときの対処法はこうだ。Ctrl、Alt、Deleteを同時に押して問題のあるアプリケーションを閉じる。それでもダメなら電源ボタンを三秒くらい長押しして直接落とす。再び電源をつけたところでやはりダメなようならOS再インストォォーッル!!
 って、目ぇ閉じて開けるだけで何やってんだよあたしは!!
 いや、思考は止めちゃダメだ。止めたら敗けだ!この際何に負けるとか考えちゃいけない。とりあえず何か、何かないのか!?アクションまでとは行かなくてもせめて何か言葉を発しなくては!!

 ここ元親の部屋?いや違う。表札は確認した。

 ピンク好きなの?いやいやいや。そうじゃないでしょ。

 趣味?自分の部屋のインテリアなんて趣味以外の何者でもないだろうよ。

「あー……?」

 一体何秒間止まってたんだろう。元親に呼ばれてあたしの首はギギギと彼の方を向く。
 そこにいた彼を見て、あたしの思考回路は完全にショートしました。

「も、とちか?ええと今日は急にごめんね?か、帰るわ、あたし。また、あしたね?」

 冷静になれず、思考もできない脳ミソから何とかそれだけ絞り出す。
 元親を前に後退り、そのままダッシュしてあたしは帰路についた。
 後ろからあたしの名を呼ぶ声が聞こえたけど、今は止めるな!止めるんじゃない!
 ごめん、元親。引いて、逃げたわ。3原則二つも破ったわ。でも……それは部屋のせいじゃなくって、うああああああっ!!もう、もう、とりあえず帰ってショートした回路を復旧させるのが先だ、馬鹿野郎ーーっ!!








※バックブラウザ推奨





2008.02.24