夢話-夢小説の間-





らぶりーまいだーりん

〜重大なエラーが発生しました〜




 元親の部屋を見た翌朝、あたしはどんよりとした足取りで学校に向かう。
 一歩一歩が重い。どんな顔で元親と顔を会わせたらいいんだ。また明日とか言った記憶が辛うじてあるからしてお昼休みくらいは一緒にとりたいなぁとは思うのだが、しかし!
 バシッといい音がしてあたしは前につんのめる。

「いよぅ、朝っぱらから冴えない顔だなぁ、

 出た。魅惑の腰もとい、隣のクラスの伊達正宗。極道の息子だかなんだか知らんがやたら目付きが悪い。が、顔がいい。あと腰がいい。腰って何だと聞かれても、見てみろとしかいいようがない。

「そりゃ寝不足ですから」

 視線も上げずにため息をつく。
 よりにもよって面倒なのに朝から絡まれたものだ。
 周りの女子がキャーキャー言ってるが、みんな顔が目当てか?腰が目当てか?

「んだよ、またあの馬鹿のことか?」
「あたしが悩むのは毎食のご飯と元親のことだけだ」
「お熱いことで」

 睨み上げれば口笛と共に肩をすくめた伊達。

「んで、どうした?」

 聞いてきてくれると言うことは相談に乗ってくれるってことだろうか。
 どうしたって、その昨日……昨日元親の家に行って、その……言えるかぁぁぁああああッ!

「あ、う……その……」
「なんで赤く何だよ?あんたはどこのpure boyだ?」
「うぅ、真田と一緒にされるとはなんたる屈辱……」
「呼んだでござるか?」
「おっはよ〜、ちゃん、竜の旦那」

 にょきっとどこからともなく現れたのは純情ピュアボーイこと伊達と同じクラスの真田幸村とエロテロリスト猿飛佐助。女の子と手を繋ぐだけで破廉恥と叫ぶ純情ピュアボーイと女の子を見掛ければやたらと触りたがるエロテロリスト。この二人、クラスと性格は違えどいつも一緒。幼馴染みらしいがそこまで一緒だといっそBL仕立てにしてやりたくなるあたしの思考は間違っちゃいない。

「ああ、そう言えばおはよ」
「某を呼び申したか?」
「いや全く、全然、これっぽっちも」

 すっぱりきっぱり答えるとがっくりと項垂れる真田。この反応が面白いからついつい会う度にいじめてしまう。
 そんなときに……、

「ちょっと、ちゃん!朝から真田の旦那いじめるのやめてくれない?」

 こう、猿飛が仲介に入るわけだ。でも真田は単純だからすぐ直るんだ、これが。

「真田を見るとつい。よかったな、真田だけの専売特許だぞ」
「それは真でござるか!?」

 顔が輝く真田。誉めてないけど……ほら、ね。

「あーもういいよ、好きにしなよ」
「お節介なんだよ、猿は」

 諦める猿飛とニヤリと笑う伊達もいつものこと。

「あ、伊達、あのさ、折角の前フリだからありがたく後で相談のってもらっていい?」

 靴箱で上履きに履き替え、あたしは伊達に言う。

「Hahn?珍しいな」
「何々、何かあったわけ?」
殿、お悩み事でござるか?某も相談をお受け致す!」

 いらんのまで食いついてきた。
 まあ、この場で言ったあたしが悪いんだろう。ああ、そうだろうとも。
 て、いっても結局伊達も真田も他クラスなわけで、相談は自然と放課後でと言うことになる。

「ねぇねぇ、結局あの後行ってみたの?」

 クラスの自分の席につけばもちろんエロテロリストが目の前の席なわけで、話を振られることは想定範囲内だ。
 好奇心に目を輝かせてこっちを見ている。
 あたしはため息を吐き出した。

「……それは放課後話すわ。ところで毛利は?珍しいね、遅いなんて」
「ん、そういや確かに」

 猿飛の前の席が空っぽだ。毛利はいつも日の出を見てからやってくるから誰よりも早いはずなんだが……。風邪かな?

「猿飛のせいで変な病原菌にかかったんじゃないの」
「何で俺様のせいになるのさ」
「かかってたまるか」

 ガツッと本日二度目の打撃が後頭部に入る。伊達といい、毛利といい、お前らあたしの頭をなんだと思ってるんだ。
 毛利はあたしの恨めしげな視線を鼻で笑ってさっさと席につく。

「毛利の旦那がギリギリなんて珍しいね〜」
よ、昨日何があった」

 毛利が猿飛を無視してあたしを睨む。目が切れ長だから普段から何か睨んでる感じがするが、あたしはフリーズする。

「え゛」

 昨日と言えば元親の……って、何で顔が熱くなるんだあたしはっ!!あれは、あれは元親があああああっ!!
 何も答えられずたぶん赤面しているあたしを毛利はまたも鼻で笑った。

「あの男を宥めすかして登校させるために我がどれだけ時間を取られたことか」

 宥めすかすってあんた……。

「……元親、学校は来てるんだね?」

 よかった。とりあえずよかった。お昼休みに誤解だけは解いておこう、うん。
 追求したそうな猿飛が口を開いたところでチャイムが鳴る。
 クラス担任が怒るとチョークではなく愛の拳が飛んでくる武田先生なだけに、猿飛は口を閉じておとなしく前を向いた。
 さて、どう誤解を解いたものか。昼休みまでに考えないと。
 いつも元親が迎えに来てくれるけど、今日はあたしから行こうかな。

ちゃ〜ん、おーい」

 ん?

「っ!?」

 あたしは思わず身を引いた。
 いつの間にか猿飛があたしの顔の間近にあったせいだ。

「な、なに?」
「前、前」

 前?武田先生があたしを見ててその手には出欠簿。
 ……………あ。

「はいはいはい、います!元気です」

 うを、完璧無視してた。っていうか耳に入ってなかった。 あれ?朝の挨拶ももしやガン無視した?立った記憶も礼した記憶も座った記憶もないぞ。
 まあ、元親よりも大事なことなんて今はないからな、仕方ないってやつだ、不可抗力だ。

ちゃーん」
「……………」
「ダメだこりゃ」
「捨て置け」

 昼休みまでぼーっとし続けたあたしは猿飛と毛利にも見捨てられていたことすら知らない。
 4限目終了のチャイムと共にあたしは立ち上がった。弁当を鞄から二個取り出している猿飛と、野菜ジュースだけ取り出した毛利にツッコミを入れることもせずまっすぐ元親のクラスに向かう。……伊達たちと同じクラスだけどね。
 教室を覗くとあたしに気付いた伊達がひらひら手を振っている。
 あれ?

「元親、いないの?」
「おう。そっちに行ったんじゃねぇのか?」
「いや、あたしまっすぐこっち来たけど会ってないよ」
「さっさと出ていっちまったけどな」

 入れ違いかなぁ。昨日勝手に帰っちゃったから怒ってるとか。さすがにあの別れ方は不味かったかなぁ……。でもあれが精一杯だったし、思考回路がショートしてる中であれ以上最良の帰り方があるなら是非教えてもらいたいものだ。
 あたしは伊達に元親の机を勧めてもらって座らせてもらう。ちょうど伊達の真後ろだ。

「戻ってくるまで待ってよっかなぁー」
「んじゃオレの飯に付き合え」
「そういやあんたいつも一人で食べてるよね」

 寂しいやつー、と言ってやれば、騒がしいのは好きじゃねぇと返ってくる。テンション上がれば意味分からん英語発して騒ぎまくりの癖によく言うよ。

「飯は?」
「元親と食べる」
「……あいつが絡むと可愛いことも言えんだな」

 はん、笑いたきゃ笑えばいいさ。
 結局昼休み中に元親には会えず、あたしは昼飯を食いっぱくれて教室へ戻ることになった。
 伊達に、今日は一緒に帰れないって言っといて、と元親へ伝言を頼み自分のクラスの自分の席に戻る。

「会えなかったの?」

 その言葉の発信源は弁当箱二つをしまっている猿飛。

「何でわかんの?」
「顔に書いてある」
「あっそ」

 5、6限目とまたもぼーっとしながら過ごす。
 空が青い。
 憎たらしいくらいに青い。

「鬼の旦那がいないと病気みたいだね」
「我に話を振るな」

 どうやら元親がいないとあたしには正常に機能しないと言う重大なエラーが発生するらしい。
 早く修復しなくては。








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2008.02.24