色のない客人
怪我が完治して早十日。
当初奇異の目で見られていたが、段々と慣れてきたのかそこまで視線を感じることはなくなった。
もとよりあまり気にしてなどいなかったが。
私の興味は松永久秀を中心に構成されている。
松永さんの行くところならばどこへでも赴き、常に近くを陣取る。
それが今の私に唯一存在する『欲』であり、『望み』だ。
理由は明白。
彼は私に色を与える。
「おや、これはこれは。珍しい客だ」
楽しそうに弾む声を追って、視線を動かす。
白黒の、男が二人。
纏う空気は殺気と呼べるもので、それは明らかに松永さんへと向いている。
「お茶、出す?」
松永さんに聞けば、構わんよ、とどちらとも取れる返答を貰った。
こういうときは好きにしろ、ということだ。
「ッ!?アンタ、ここで何をしてる?」
呼ばれた。
男の片方に、松永さんから貰った名を呼ばれた。
ゆるりと顔をめぐらせて、珍客とやらを見る。
白黒。
それだけだ。
興味がない。
「……私の知り合い?」
松永さんに聞けば、いつものように笑われる。
色づく世界が、そこにある。
「卿の知り合いを私に聞くのかね?」
「貴方以外に興味がない」
「それはまた、嬉しいことを言ってくれる」
そういう松永さんは笑ったまま。この人は思ってもみないことを言うのが好きだ。
つまらない芝居も、爆弾兵が散る様も、私に関しても、全てこの笑みで片付けてしまう。
「……あんた、あのか?」
「松永さん。松永さんのお客なら接待したらどう?」
「政宗様を無視するたあ、いい度胸じゃねぇか」
ぐだぐがうるさいな。
松永さんから珍客二人に目をやる。
相も変わらず、白黒だ。
まだ何か言っている。
「テメェは前から気に食わなかったんだ」
うるさい。
「武田が――」
わずらわしい。
「何で松永なんぞの――」
耳障り。
「猿はどうした」
それは前にも聞いた。
頭が痛い。
前にも聞いた?あるわけがない。
「挨拶もない礼儀のならぬ客人にはお帰り願おうか」
松永さんの言葉で我に返る。
今、私は何を考えていた。
何か、頭に駆け巡った。
色がついた、景色、人、声。
頭が、痛い。
目の前には、松永さんの、背中。
「松永さん……」
「手伝うかね、」
「……気が、向いたら」
結局は、松永さん一人で追い払ってしまった。
なんだか、今日の松永さんは珍しく、苛々としているように見えた。
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2008.07.27