色のある人
最近、夢をよく見る。
色のついた、夢を。
見た覚えのない人間や、見た覚えのない景色に囲まれて笑う、そう、私が笑っている、夢。
起きて、白黒の世界に安堵する私がいる。
松永さんを見つけて、松永さんにだけ色を見出せて、安堵する私がいる。
「どうかしたのかね?」
「なんでもない」
言う割りに、今日はいつも以上に松永さんに近い位置にいる自分を認識する。
いつもは数歩離れてとか、木の陰とか、それなりに離れた場所について回るのだけど、今日は松永さんの隣にいるのだ。
「招かざる客とはいえ、会わせるものではないな。
いや、会ったからこそ、か」
ぼそりと私に聞こえないように呟いたつもりなのだろうけど、私にはしっかり聞こえている。
何の話か問おうかとも思ったが、私に話しかけているわけではないと分かっているから、放置しておく。
クスリ、という音が聞こえる。音の源を探れば、それは松永さんだった。
「……相当重症のようだ」
重症ということはつまりは病ということだろうか。
「風邪?」
尋ねればククッと笑われる。
「いやはや、卿は実に興味深い」
いつもより近くで聞くその笑い声は、いつもとは何か違うものを秘めているようにも感じた。
私が松永さんに興味を抱くように、松永さんも私に興味を抱くらしい。
方向性は違うように思えるが。
「……松永さん、またお客らしいよ」
「ふむ、無粋だな」
松永さんも気付いていたらしい。
先程から近づく気配がある。
どこか感じ慣れた、と思うのは気のせいだろうか。
それと同時に、酷く消し去りたい衝動にかけられるのも、気のせいなのだろうか。
「珍しいな」
「なに」
「卿が感じたことを表に出している、ということが酷く珍しい」
とん、と眉の間を押された。
しわになっている、と笑われれば、確かに私の顔は眉を寄せてしわを作っていることに気付く。
確かに、今まで感情というものは表に出さなかった。
いや、出さなかったというよりも、何も感じなかった、というほうが正しい気がする。
なのに、先程から感じるこの気配に、自然と眉が寄る。
心の臓が掴まれるような、気持ち悪い感覚に陥る。
「不快、だ」
正体が分からない気持ち悪さ。
この気配を消せば、収まるだろうか。
「止めておきたまえ」
私の考えていることはお見通しだというように松永さんが止める。
ご丁寧に手まで握って拘束している。隣に来たのが災いした。
「……何故?」
「卿は、」
ぐいと引き寄せられて、私の身体は逆らわず――逆らう暇すら与えられず――ぽすんと松永さんの腕の中に納まった。
「ここにいたまえ。私が欲したのだからな」
……答えに、なっていない、と思うのは私だけだろうか。この場には私と松永さんと、例の気配しかないわけだが。
落ち着かない、気持ち悪い気配を持ったそれは、いつの間にか消えていた。
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2008.07.27