夢話-夢小説の間-





色を奪ったモノ






 洒落にならない話を聞いた。
 珍しく乗り込みでもなんでもなく書状を送って正式にやってきた独眼竜とその右目が、その洒落にならない話を持ってきた。

 が生きている、と。

 正しくは「何でが松永のところにいる」と開口一番言われただけなんだけども。
 通りで俺様も謁見に呼ばれるわけだ。
 聞いた瞬間耳を疑ったね。
 アイツは殺した。俺が。この手で。
 裏切りの疑惑がかかって、俺が判断し、直接手を下した。
 大将には報告したが、真田の旦那には良かれと思って報告していない。
 それが、裏目に出た。
 おかげで、何故、どうしてと詰め寄る旦那をなだめるのに相当の時間と苦労を要した。

「佐助、その話はまことか!?」
「だから何遍も話してるでしょうが」
「だがっあのが裏切るなどっ!!」
「疑わしきを罰する、当然でしょ?」

 何回目になるかのやり取りにもため息もんだ。
 大将も独眼竜も、ついでに右目もまだそこにいるって言うのに。

「で、それ本当にだったわけ?」
「改めて聞かれるとあんま自信はねぇがな」
「瓜二つの人間ってぇのも世にはいるからな」

 何その答え。
 わざわざやってきてこっちを混乱させるようなことを言って、何したいんだか。
 まぁを始末したことは他国に話すようなことじゃないから、確認に来たんだろう。アイツは結構目立つやつだったし、独眼竜に気に入られていたみたいだし。
 頭をガシガシやりながらお館様に目配せする。
 が、こちらを見ようともしない。
 まさに不動、だ。
 流石は大将。山の如しってか。

「佐助」

 呼ばれた一言にやっとけという感がありありと見えた。

「へいへい調べときます」

 やれやれと息をついたのはいつもどおりのご愛嬌。

「こっちも忍を出して確認してぇところだが、だっつぅのを確認できんのは猿だけだからな」
「変な期待かけないでもらえますかねぇ、独眼竜さん」

 確かにとは里からの付き合いだ。
 かすがと同じくらい、いや、武田にいた分を考えるとそれ以上に付き合いは長い。
 相当な腕を持つ忍で、一応、俺様の想い人、だった。
 殺らなきゃならないんなら、俺が殺る。
 そう覚悟して手を下したというのに……。あー、こんなこと一つで心揺るがせてるようじゃ忍失格だっての。

「んじゃ早速、失礼っと」

 屋根裏部屋へと引っ込んでそそくさと移動を始める。
 っつか、松永軍って、また厄介なところにいてくれちゃってるねぇ。 
 できれば、赤の他人、全くのに瓜二つの別人って説を望みたいもんだ。
 嫌な予感をびしばしと感じながら、やって来てみれば、案の定嫌な予感は的中した。

「……松永さん、またお客らしいよ」
「ふむ、無粋だな」

 極限まで気配を殺しているってぇのに何で気付くかねぇ、お二人さん。
 聞こえた声は女と、男のもの。
 しかも片方はやたらと耳に覚えのある声。
 息を潜ませて、探る。
 男は、部下と独眼竜たちから聞いた情報を総合するに松永であるに違いない。
 女は、女は……に、瓜二つの顔をしている。背丈も、先程聞いた声も、が仕事中によく発音する音に似ていて……。
 クソッなんだってこんなにも息苦しいんだ。
 そのまま姿を現すことなく監視を続ければ、松永がを引き寄せ、た。
 にやりと、挑発的な笑みを浮かべたまま、松永は俺に視線を寄越す。
 完璧に気付いてやがる。
 しかも、それ、当て付け?

「ここにいたまえ。私が欲したのだからな」

 甘く囁く、なんて面に似合わないことしやがって。
 苦しい。
 アレはじゃないと思おうとしても、ダメだ。
 分かる。
 あの男の腕の中にいるのは間違いなくだと。分かってしまう。
 心の臓が締め付けられるみたいだ。
 それ以上見ていられなくて、俺は早々に武田に引き返した。
 真田忍隊の長が笑って呆れちまう。






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2008.07.27