色を欲する者
一人になってから感じる気配に笑いを浮かべるしかない。
忍というものは、忍んでこそ、というのを彼は分かっていないのだろうか。
いや、分かっているが抑えきれない、とでも言ったほうがいいのか。
よほど腕が未熟か、それとも他に捕らわれているものでも有るというのか。おそらくどちらもだろう。
それを思うとやはり風魔は伝説と呼ぶにふさわしいだけの働きと腕を持っていた。
「いい加減、出てきたらどうだね」
わざわざ彼女を撒いて一人になってやったのだ。
顔くらい拝ませてもらわなければ。
木々がざわめき、一度の瞬きの間に、目の前に現れたのは一人の男、否、忍。
到底、忍と評価できる見た目をしてはいないが。
「どーも、お初にお目にかかりますってか?」
飄々とした態度のままこちらに向けられてくるのは殺気と、フッ、嫉妬、といったところか。まだまだ青い。
「卿かね、連日足繁く通っていたのは」
「まぁね、気付いてたんだ?」
「気付いていたとも」
わざとらしい会話に笑う。
拙い、な。実に。
「非常に不愉快極まりない」
くつくつと笑ったまま言い放てば、向こうも作り笑顔のままで笑う。
「同感だ」
吐き出された言葉は満足のいくものだ。
適度に距離を取る姿を見ると、そこまで愚かではないらしい。
「さて、呼びたててしまったところ申し訳ないが、白状すると卿にはまるで興味がないのだ」
そう、彼自身に興味は全くない。
ただ彼女が異様なまでの感情を見せる、その様に……フフッ嫉妬している、といったところか。
すらりと剣を抜き放つ。
「だがしかし、いささか目障りでね」
「そりゃまた物騒なこって」
応じるように向こうも構えを取る。
ふむ、甲賀か。
隙あらばという態度が実にふてぶてしい。
合図もなく間合いを詰める。
「チッ」
「品がないな」
ガキィッと金属同士がぶつかり合い、火花を散らす。
相手はすぐに離れて飛び道具を放ってくる。
ククッ、苛烈苛烈。
後ろに下がり、問題のあるものだけを叩き落とす。造作もない。
「ハッお馬鹿さん!」
後ろから聞こえた声に笑った。
「卿が何故得意になっているのか判らないな」
「なっ!?」
地が爆ぜる。
どさりと崩れ去る忍を見下ろした。
この程度の罠にかかるとは、甘い少年だ。まだ動く力は残っているのは瞬時に避けた、というところか。
「実におかしい。この私が感情に揺さぶられるとは」
何故彼女に惹かれるのか。
日の光に映えるま緑の中に横たわる紅に目を奪われた。
次いで、あの空の、何も映さない瞳に興味を持った。
何を望むのかと。何を欲するのかと。
それが今やあの瞳に映る自分に優越感を覚える。
そしてそれ以上に、自らの瞳に彼女を置くという、ただそれだけのことに満足感を得る私がいる。
「人生はこれだから分からない」
さて、傅く男をどうしてやろうか。
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2008.08.09