夢話-夢小説の間-





居住決定





 今の状況をおさらいしてみよう。
 起きたら見知らぬ部屋に寝かされていて、その部屋にいた戦国BASARAの猿飛佐助の格好をした人に色々された、と。猿飛佐助っぽい人の言い分が正しいのならここは戦国BASARAの世界で武田信玄、つまりはぅお館様ぁの治める甲斐らしい。
 で、よく分からないながら勝手に忍び込んだことになっている私は一応警戒する必要はないラインに立たされたためこうして引っ立てられている。両脇に大勢の家臣とおぼしき人に飾られて。
 ここに来るまでに様々な個人情報を猿飛氏に漏洩したものの、返ってくるものと言えば適当な返事か呆れたため息か、イタイ視線だった。
 両脇隣にずらりと知らない人が並ぶのはちょっと怖い気もするが、回りも顔もよく見えないので逆に緊張感はない。きっと有名武将だらけなんだろう、たぶん。この中にあの真田幸村もいるのだろう、おそらく。目の前に構えているのが武田信玄なのだろう、きっと。
 ……全くもって視界は不良のため確認する術はない。
 よってこの場で私のすることと言えば、それこそボケーッとして、ボケーッとして、ボケーッとすることくらいだ。
 必要そうなことはみんな猿飛佐助ライクの人がしゃべってくれたせいもある。

「佐助の警戒を解くとは、あっぱれ!」
「え、あ、はい。ありがとうございます」

 真っ正面に正座したまま頭を下げる。よく分からないところで誉められた。いやむしろ猿飛佐助を誉めてやってほしい。これだけのアホによくぞ警戒を解いたと。いや、アホだから警戒解いたのか?

「聞けば分からぬ内にここにいたとか」
「そうですね、寝ながら歩くほど器用でもないですし、そんな病気でもありません」
「歩けば絶対何か破壊してるね」
「か、返す言葉もございません」

 茶々を入れてきた猿飛佐助――ああ、もうめんどいから佐助でいいや――の言葉にがっくり項垂れる。視界が不良かつ慣れない場所のため彼に手を引かれなかったらここにくるまで何度転んだりぶつかったりするはめになったのだろうか。数えるだけで両手の指は埋まってしまう気がする。ちなみに歩きながらけつまづいて佐助にタックルをかましそうになることも数回あった。そのたびに彼は器用に避けつつ支えてくれた。いい人だ。

「言っている言葉はときどきよく分かりませんけど、戦か何かで頭でも打ったんじゃないかと思いますね」

 もうなんでもいいです。本当にここが戦国BASARAの世界だというのなら、いったいいつ戻れるのだろう。

「ふむ、してよ。今後はどうするつもりだ?」

 今後。
 そう、今後だ。どうもこうもない。無理だろ、色々と。

「順当に行けば野垂れ死にすることになると思います」

 草でも食べて生き残るかなー。それもどうだろうなー。
 とりあえずクリアしてないゲームとか、未プレイのゲームとか、いろいろあるから帰りたいには帰りたいのだ。それにはまず私がなぜここにいるのか分からなければならないし、調べ物するにも目が見えなくては話にならない。眼鏡ってたしかこの時代だった気もするけど眼鏡を買うにもお金がない。お金がなければ働けばいいとか思うが私を雇い入れてくれそうなところなんてあるだろうか。

「まずは生活資金を稼ぎたいのですが私でも働けそうな場所はありますか?」

 あ、れ?何か空気悪いぞ。

「……金が入るまではどうする?それにその服では、な」
「あ、確かに」

 あわよくば住み込みでと思ったし、最悪どっかその辺にホームレスとも考えたのだが、服か。相変わらずパジャマのままだし、袖が赤々しいし、何より生臭い。これで就職活動してもどこも雇ってもらえないんじゃないだろうか。というか私だったらこんな怪しいやつごめんだ。

「仕方ありませんね、樹海にでも行くことにします」
「樹海?」

 富士山のお膝元なのだからあるだろう樹海。

「自殺の名所じゃないですか」

 今度こそ完全に場が沈黙した。
 ……突飛なこと言うのは私の中では今さらだし、できれば佐助辺りに勢いよく突っ込んでもらいたかった。

。命を粗末にするのは感心せん」
「はあ、まあそうですね」
「親も家族もいるのだろう。一人だけの命ではないはずだ。自ら命を絶つことはこのワシが許さん。
 よって、お主の怪我が治り、働き口が見つかるまでここにいよ」
「え?」

 それって思い切り命令系じゃないか。というか、ここにいていいとな?どれだけ懐広いんですかこのお人。さすがはぅお館様ぁ。

「よいな」
「あ、はい、その、ありがとうございます」

 と、頭を下げたその時だった。赤い塊が私の横を駆け抜ける。

「さすがはお館様!某、真に感銘を受けましたぁ!!」
「幸村ぁ!」
「お館様ぁ!!」
「ぃ幸村ぁああ!!」
「ぅお館さばぁああっ!!」

 ……おぉう、武田名物殴り愛。間近で見ても全然見えないのが至極残念極まりない。バキィとかドコォとか、音を聞くに大分ヤバイと思うのだが、これを合図とばかりに広間に揃った皆様は解散していく。すごいな、武田。これが武田式解散か?

「そこ、危ないぜ、ちゃん?」

 座ったまま声の方へ顔を上げれば、たぶん、佐助、だと思う人が私を見下ろしている……気がする。顔も姿もぼやけていてちょっと判別に迷うじゃないか。でも迷彩柄は彼だけだった、と、思う。

「すんごい顔だね。俺様のこと嫌いだろ」
「ああ、また。すみません、つい。私目が悪いのでよく見ようとすると睨み付けたような顔するらしいんですよね……だからと嫌いじゃないですよ。むしろ好きな方です」
「あらら、嬉しいこと言ってくれちゃって。ちなみにちゃんと目は見えてる?」
「色の認識くらいはできます。綺麗な髪色ですね」
「忍ぶには邪魔なんだけど、そっか、見えてるんだ。あ、ちょいとごめんよー」

 ひょいっと佐助が私を抱えあげたと思ったら視界がフェードアウトした。狭まった視界の中に真っ赤な何かが横切って、あれ?と思う間もなく派手な音が聞こえた。

「えっと?」

 瞬間移動か。
 ……瞬間、移動!?す、すごい、さすがはBASARAの世界。もはや人間じゃない。

「大将〜、気を付けてくださいよ」
「お主ならば避けるなど造作もなかろう」
「ま、そうですけど」

 吹き飛んでいったのは恐らく真田氏で、吹っ飛ばしたのは恐らくお館様だろう。とりあえず人はそんなに簡単に飛ばない。常識的にも物理的にも絶対。
 うん、何の予備知識もなくこの世界に放り出されたら間違いなく困るな。激しく困るな。よかった、BASARAやってて。

「ありがとうございます、竹田さん」
「あれ?案外驚かないね。俺様は猿飛佐助。武田はそこの御大将」

 下ろされながら言われるが、いかんせんしつこいながら見えないのだ。見上げたら赤くてでかいのはわかった。

「猿飛さんと武田さんですね、お世話になります」
「武田さんってのはなぁ……一応この国の主だから様くらいつけようか?」
「あ、すみません、武田さまでよろしいですか?」

 笑顔で訪ねれば、沈黙が。

「某は、真田でござる……」

 え、いつの間にこの人復帰したんだ?た、たしかに言われてみればお館様より線が細いような。

「え?あれ?あ、すみません。ええと、こちらが武田さま、で、猿飛さま、真田さま?」

 首をかしげながら言えば呆れたようなため息が横手から聞こえた。

「……あのさー、ちゃん。これ、何本?」
「え?」

 ぴっと佐助の目の前に出された彼の手。どれだけ見えるのかよくやるあれだ。手を伸ばせば届くくらいの距離だけど、私の目の能力には遠い。見えん。迷彩と相まってそこに指が立てられているのかもわからない。失礼承知で目を細めて……何とかそこに指があるような気がしてきた。

「……えーっと、二本、いや三?すみません、近づいていいですか?」
「それ、マジ?」
「マジです、大マジです。本気と書いてマジと読みます」

 真顔で言えば空気が呆れたものに変わった。
 私は佐助に近づいていって手のひら分くらい離れたところ……要はかなり接近してみて――近づきすぎて若干引かれている――初めて佐助の指が一本だけピンと立っているのを認識した。

「……あちゃー、また悪くなったかな」

 思わずそう溢してしまうくらい自分でも視力の悪さを実感する。

「お主のそれは病気か?」

 お館様が腰を折って目を合わせてくれる。って、すげぇ、お館様のその身分なんて関係ない的な態度が私好きです。
 今の内にお顔を拝見しておこう。……どうでもいいが、あの赤いもふぁあってのは兜の一部であって地毛じゃないんだね。あ。出家してるんだっけか。

?」
「ああ、いえ、環境のせいだと思います。暗いところで長時間読み物をよくしていて、たぶんそれが原因でしょう」
「鈍いのはそれが原因か」
「そうなんでしょうね……」

 目が見えていても私はいろんなとこにぶつかる。が、やはり人間視力と言うのはとても大事で、見えないだけでその数が倍というか、自乗されている気がする。
 いや、鈍いのは鈍いがちゃんとコンタクトや眼鏡をすれば私だって運動くらいできる、と言い訳しておきたい。

「こんなんで働き口見つかりますかねー」
「案ずるな、ワシが探してやろう」
「っ!何から何までありがとうございます!」

 嬉しすぎて私は思わずお館様に抱きつ……こうとして自分の足に引っ掛かる。
 うっわーよくやるな、私。カッコ悪。
 自分のアホさ加減に呆れ、また畳とご対面かーなどと悠長に考えていると、目の前に迷彩が広がった。

「あ、れ?えーっと、猿飛さま?」
「ほら大将、警戒する気も起きないでしょ」

 何か随分なことを言われたが、お館様が笑ってるっぽいのでよしとしよう。

「佐助、いつまでそうしている気だ」
「えー?だってちゃんが俺様のこと放さないんだもん」

 といいつつぎゅうっと抱き締めてくるのはなぜでしょうか。まあ、役得?顔がにやけていないか非常に不安である。佐助も人間なんだなぁ。暖かい。ここは私も抱き返しておくべきか。

「破廉恥なっ」

 あ、生破廉恥。
 幸村が言うと可愛いのはわかるのだが、言われた方はちょっとショックだ。別に心の中をグットタイミングで覗かれた気がしたからショックなわけではない、という言い訳は誰に言うわけでもないけれど、ああ、無性に悲しくなってきた。

「ハレンチ、……そう…ですか、すみません」
「あ、いや、お主が悪いと言うわけでは……佐助!」
「えー?俺様なんにも悪くないぜ。お部屋まで抱っこして案内しようか。どうせ歩かせても転ぶでしょ」
「は、破廉恥だぞ!」
「こういうのは気遣いって言うんだぜ、旦那」

 アップテンポで交わされる会話に思わず笑ってしまう。全然部下と上司の態度じゃない。漫才だ。
 ひたすらに佐助の腕の中で笑っているとぽすぽすとお館様に撫でられた。

「幸村、佐助、任せたぞ」
「承知!」
「御意」
「何かあれば来るといい。遠慮するでないぞ、
「ありがとうございます」

 いつの間にやら和やかムードだ。そのまま去っていくお館様を見送り、そろそろここ、佐助の腕の中から抜け出していいだろうかなど思いを馳せる。

「んじゃま、こっちも行きましょうか」

 その言葉に自分で立つ準備をして待ち構える。が、……お姫さまだっこに持ち変えられた。

「え、降ろしていただけないんですか?」
「こっちのが早い」
「さ、佐助ぇ!」
「あんたはお仕事戻んなさい、真田の旦那」

 佐助は私を横抱きにしながら三度破廉恥を発しそうだった幸村の鼻に人差し指を添えるという器用さを見せた。
 まだ幸村がなにか言いたそうな気配が漂っている気がしなくもなかったが表情が見えなければなんとも言いようがない。とりあえず、ドンマイ、幸村。
 そして私はおとなしく佐助に運ばれることとなった。








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2008.04.08