夢話-夢小説の間-





展開急変





 人生、戦わなければならないときがある。
 それは誰しもに訪れ、自分の力のみで何とかしなければならないのだ。
 誰かに頼ることもできず、かといって頼ったところで物事の解決になるわけでもない。
 戦うも逃げるも先延ばしも自由。
 けれど、アクションを起こすには種類や方向性は違えど『覚悟』なるものが必要になる。そう、それはまるで魔法を使えばMPを消費するが如く、必然。
 私にとって、戦いは今まさにこのときなのだ。というかこのまま引き伸ばしていたら私の精神が大変なことになってしまう。いや、もうホンとマジでやばいんです最近特に。
 覚悟を決めろ!
 イザ、決戦のとき!!

「ザビー様、わたくしどうしても欲しい物があるのです!」
「マリア、言ってみなサーイ、ザビーの愛デスカ?」

 んなもんいらねぇよ。
 私の記憶が正しければ、眼鏡を日本に持ち込んだのはフランシスコ・ザビエルだ、うんきっとそう。そろそろ現代知識が妖しくなってきたけれど、ここでおさらいしておこう。
 BASARAの世界が多少狂っていようとも、いやむしろ狂っているからこそ、ここにはあると確信めいたものがある。異国から伝わっている宗教が違うとか、そういう細かい所に突っ込みを入れているようではこの世界を生きていけない。いや、ほんとに。

「異国にある“眼鏡”という視力の矯正具がほしいのです」
「分かりマシタ、ザビーの愛デスネー!」

 わかってねぇぇぇえ!!
 思いっきりその顔を殴り飛ばしそうになるが、いや待て、冷静になれ私。何のために妖しげな宗教団体に入信してまでこんなオッサンに近づいたんだ。頑張れ私!このセリフ、ここに来てから何回目?とか自分に突っ込んじゃ駄目だ!

「ザビー様。わたくしの視力では麗しいザビー様のお顔を拝見できないのです。この、それだけが心苦しいのです」
「それならば、マリア。すぐにでも本国から取り寄せマース」

 よしっ。私は心の中で全力でガッツポーズした。勝利だ!勝鬨を上げろ!!いや、今上げちゃ不味いのだが。
 でもこれで視界が良好になるはずだ。そのためなら何でもやってやろうという心意気は無駄にはならなかった。頑張った私。今ならザビーにキスくらいならやってしまっても構わないくらいだ。もちろんしないが。

「嬉しいですわ、ザビー様!」
「サア、ワタシの胸に飛び込んでクルネー」
「わたくし早速ザビー様の愛を広めて参りますわ!!」

 飛び込んで来いと腕を広げて輝くキモイオッサンから高速で目を離し私は逆方向へ駆け出す。三十六計逃げるにしかず。
 冗談じゃない。さっきのは例え話であって本当にやるなんて誰も何も一言すら発していない。
 全力で走ればザビーの足なんてあっという間に巻ける。それは重量級ゆえの宿命。え?視界見えないんじゃないのって?見えないけど命の危険には代えられないから必死なのに決まってるじゃないか!
 ひとまずこれくらい走ればいいかな。
 歩を緩めたところで背後からカツンと響く音に勢いよく振り返る。

「マリア、どうしたのだ。城内を走り回るなど」

 出た。緑の妖精サンデー毛利。
 今視力が悪いせいで緑の塊にしか見えないのがかなり残念だと会うたびに思う。そしてもっと残念なことに、何故か彼はザビー命なのだ。
 洗脳もここまで行けば犯罪だと思う。

「サンデー毛利、ザビー様がわたくしのために異国の品を取り寄せてくださると仰ったのです!ザビー様の愛を広めなければとついっ」
「ふっ、ならば仕方あるまい」

 おいおいおい、突っ込めよ。頼むから突っ込んでよ。まあ眼鏡が手に入ったらこことはおさらばだからな。サンデーの洗脳くらい解いておこうか。あとチェスト島津さんも。うん、そうだな。ザビー教の戦力を割いておいたほうが武田軍が西側の侵略楽になる、な。ザビーの侵略のおかげで中国も島津も兵力減っていそうだし、ここで再び分散させれば……少しでも恩返せるかな。

「そうです、サンデー毛利!ザビー様の愛に応える為わたくしに力を貸してはもらえませんか?」
「何?我に?」
「わたくしにも知略を授けてほしいのです!将棋からでも構いませぬ。わたくしのような盲人にも等しく愛を下さったザビー様のために!!」

 これくらい言っておけばサンデー毛利のことだから……、

「いいだろう。愛が備わった我に不可能はない」

 ノリノリッ!オクラ様ノリノリ!!
 吹き出しそうになるのを必死にこらえて私は毛利の部屋にお邪魔させてもらう。……入ってすぐ真正面に、視力の恐ろしく低い私で判別ができるくらいにでかいザビーの自画像があるってどうなんだろうか。いや、何も言うまい。ここはそういう場所なのだから。

「そこに掛けよ」

 お言葉に甘えて椅子にかけさせてもらう。椅子の趣味についても何も語るまい。
 いそいそと将棋を用意する緑の妖精を見ながら気付く。
 私、将棋なんてやったことないぞ。
 出された駒を目から5センチくらいのところで睨めっこしてみる。『王将』『金将』『銀将』『角行』『飛車』『香車』『桂馬』『歩兵』、うん、8種類、だ。

 結果はものの見事に惨敗だったことを申し伝えておこう。

「すごい、すごいのですね!元は一国を治めていたというのになぜザビー教へ?」
「ふ、ザビー様の愛の方程式にいたく感動してな」

 何故そこまでザビーに心酔できるのか私にはさっぱり分からない。理解したくもないのだけれど。
 というか、感動したのはあのジャイアニズムと放任主義からできている愛の教えとやらだろうか。毛利らしいが、それは人として間違っている。……いや、毛利の存在自体人として間違っているというか冷徹非道だからちょっとは人として改善されたのか、いやでもその矯正のされ方はよろしくないだろう。

「では愛を知った今、再び国の主になろうとは思わないのですか?」

 とにかく、洗脳を解くには思い出させるのが一番だろう。なに、なぜ、と今の矛盾点をぶつけていけば賢い彼のこと、離反するだろう。たぶん。別にしてもしなくてもどうでもいいが。

「それは……」
「わたくし、あなたが治める国を見てみとうございますよ」

 全員駒扱いなのは知っているがそれは言わないお約束だ。もしかしたら愛に目覚めたかもしれない毛利が人望も取り戻してすごい国を作ってしまうかもしれない。
 ……あれ、そしたら私の戦力分担しようぜ作戦失敗だろう。やっぱり頭なんて使うもんじゃない。

「マリア……」
「あっと、もうこんな時間なのですね、お暇しますわ」

 とりあえず余計なことを言われないうちにとっとと退散しよう。あとはチェスト島津さんにも会わなきゃならないし。
 ……毛利には変な小細工したけど、鬼島津さんには直球勝負のほうが良いだろうな、うん。

「チェスト島津!」
「おお、マリアはん、どないした?」
「本国に真実の愛があるとお告げがありましたので即刻お帰りください!」
「なにぃ!?」

 慌てて出て行く鬼島津さんが若干悲しくなりました。
 ちょっとは疑うとかさー、もうこの世界の人たちノリで生きすぎだよ。ザビーのところにいるせいだろうか。でも、佐助ももっと疑り深いと思ったけどすぐ私のこと無害だって言ったし、お館様と幸村は疑いもしなかったしな。
 嬉しいから、疑えなんて、言わないけど。
 苦笑して部屋まで戻る。
 私、実は結構すごいことしている。
 まず武田のお館様と幸村と佐助と知り合い、それにザビー教にノリで入った割りに舌三寸で偉い地位までのし上がるし、サンデーとチェストなんて、会えるとは思っても見なかったし、何より。

「異世界、なんて、ねぇ」

 すごい、ことしてるなぁ。不可抗力な部分も多々あるけど。
 目標達成まであと少し。ザビーから眼鏡さえぶんどれれば甲斐に戻って、何か武田の役に立つことをしたい。帰る方法も見つけなければならないけれど、実は結構この世界の生活は気に入っているから、後回しでもいいと思う。戻った後が浦島太郎的になっていても、まぁ、この世界で生き延びた私だ。大丈夫だろう。未来にもコスプレイベントはあるって信じてる。
 にしても、三人とも元気にしてるかな……アレから、どれくらい経ったんだろう。
 ……このザビー教にいた間のことは何も言うまいっ!

「会いたいかもな、佐助、とか……」

 いや、佐助限定じゃないけどさ。会いたいと思って真っ先に出てきたのがあのおかんの顔であっただけだ。
 いってきますを言ってこなかった後ろめたさがひとつ。敬語とか様なしで呼んでやれとお館様に言われたのに実行できなくて、それもまたひとつ。帰ったときに、お説教をくらいそうだ。それを考えるとちょっとどうしようかと思う。
 いやでも悪いことしたわけじゃ……ない、し。ううん、何も言わずに出てきたのはやっぱり悪いこと、か。
 いや、早く任務を終わらせて帰ってこない佐助が悪い。そういうことにしておこう。帰ったらそう言い訳してやろう。

「とにかく、眼鏡から、だよね」

 何とかゲットできるまで漕ぎ着けたんだから、手に入れた後は脱出計画、立てなきゃ。

「マリア、入るぞ」
「へ?」

 バタン、と乱暴に扉が開かれる。
 そこにいたのは武装した毛利もとい、緑のサンデーオクラ。

「な、にか?」
「敵襲だ」
「は?」
「それとこれを、ザビー様からだ」

 ぽん、と渡されたのはなんとも現代調の眼鏡ケース。いや、いや早くね!?今日、しかもさっき頼んだばっかりですけど!?理解に苦しむBASARA界の謎。
 て、え、それよりも、敵襲とか言いませんでしたか、このオクラ。

「あの?」
「来い」

 ついていけない展開に首を傾げていると腕を引かれた。
 っていうか剥き出しの輪刀がめちゃくちゃ危険なんですが。当たる!切れる!このオクラめ!

「え、ちょっと!どこにですか!?」
「この期にここを脱する」
「は?」

 だっする、……漢字変換、脱する、で、ファイナルアンサー?
 ぐいぐいと引っ張られ、外に連れ出されそうになる。
 いや、だが渡りに船とはこのこと!

「ま、待ってください!大切なものだけは、持っていかせてください!」

 緋色の着物と、簪と、紅葉の栞をまとめた風呂敷をガッと掴む。いつでも出て行けるようにしておいて良かった。

「行くぞ」
「は、はい!」

 追いつくとがしりと腕をつかまれてやっぱりひっぱられる。
 速い、足速いですオクラ様!
 引っ張られるというか引きずられています、私。

ちゃん!?」
「え――?」

 何かどっかで聞いた声。 
 引きずられながら振り返ると、そこには、ザビーの異色な城の中にやたらと映える……迷彩色?
 迷彩、に、私のことちゃんづけ、って、一人しかいない。

「さ、す――」
「こちらだ」
「わっ」

 引っ張られたまま私はサンデーに連れて行かれる。
 振り返ろうにも速度が速すぎて無理。

「侵入者を捉えよ!ザビー様の愛の元に!」
「はっ!」

 
 ザビー様ーとか叫びながら駆け出していく黒服を目で追うけれど、結局迷彩は黒に隠れて見えなかった。
 え、ところで、サンデーはザビー教抜け出すって、こと?








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2008.09.21