夢話-夢小説の間-





ゆめまぼろしのうつつ

〜おいでませ、呼んでないけど〜




 さぁて、やっと着ました週末のお休み!二連休!今週は何して遊ぼうかな〜と、浮かれ気分なわたしが悪かったの?

「へ、」
「へ?」
「変質者ぁぁぁぁあああっ!!」

 わたしは突如部屋に現れたよくわからない格好をしたお兄さんを指差して高らかに叫んだ。ああ、お隣さんに怒られちゃう、とかそんなこと考える余裕はない。限りなくない!

「そ、の、そなたは?ここはどこであろう?」

 喋ったぁ!
 っていうかこのお兄さんなんですか。
 真っ赤な衣装着て、でも腹筋がスポーツマンのように割れてるし、でもでもそんな服見たことないよ!?何ジャケット(?)を素肌の上に着るって、どんな露出狂だよ!!
 つぶらな瞳でこっち見たって、だめなんだからね!?

「何、そのコスプレ!ちょ、近づかないで!そこでストップ!」
「すとっぷ?」

 復唱した割りに通じてないのか一歩こっちに踏み出してくる。

「止まれって言ってんの、変質者!」

 後退りしながらわたしは叫ぶように言う。
 するとお兄さんは素直にそれに従った。
 よ、よかった。命助かった?
 でも目を離したら何されるか分からない。でも、今のうちに助けを呼ばないと。わたしは手元を探る。

、頼む出て!」

 確か今大学卒業間近で暇なはずだ。
 あ、警察のほうが先?でも何故かを、あの冷静で間抜けでどこか落ち着く同級生の声を聞きたかった。

 ――プツッ

「切れた、ってか切りやがったなあんにゃろう!!」

 わたしは警察に連絡しようと思っていたことも忘れてリコールする。その間もクエスチョンマークを頭の上でかっ飛ばしたようなお兄さんからは目を離さない。
 ちょっとでも近づいたら……ど、どうしよう。武器がない武器が!

『はい!何…』

 だ!

ーッッ!!何で切っちゃうのさ!うわぁぁぁああんっ!」

 の声を聞いた途端わたしの中で緊張の糸がほぐれた。よかった。何にも解決してないけどよかった。

『うるさい!落ち着け!もちつけ!』
『もちついてどうするのさ』
『ネット界の常識です!ちょっと待っててください!』

 ……はて?今の声はどなただ?
 彼氏?もしかして結構バットタイミングで電話をかけてしまった?いやいやでもさ、ほら、男の人のほうがこういう時頼りになるって言うじゃん、たぶん。

『なにがどうしたの?』

 落ち着いて話せとでも言うような彼女の声に更に安堵する。
 が、わたしは、

「へへ変な人がうちにっ!何か真っ赤でよく分かんないんだけど迷子みたいで子犬みたいな目を向けられて困ってます!
 どどどどうしたらいい!?」

 落ち着きもせず一気に喋った。
 だってだって怖かったんだもん!よく分からないんだもん!叫びたくもなるじゃん!!

「そなた誰に向かって話しているのだ?」

 赤いお兄さんが、略して赤鬼さんが話しかけてくる。
 ちゃんとその場から動かないところが律儀なんだかよくわからない。

『旦那ッ!?』
『うわっ』

 え、旦那って誰!?っていうかお前が誰!?
 わたしの心の声に答えをくれたのは転がり込んだ赤いお兄さんだった。

「その声、佐助か!?」

 だから誰ーーー!?

『旦那!無事?』
「だ、誰!?きゃ、ちょ、近づくな!」

 ケータイ奪うんじゃない!あああ、ちょっと、まだ買ったばっかりで新しいんだから!つか、さっき動くなって言ったじゃーん。

「あーっ!壊さないで!くおら、聞け!お座りー!」

 奮闘して奪い返したケータイは通話状態が解除されていた。

「き、切れてるし……」

 ぜぇはぁと息が切れる。
 ああ、もう後が怖い。お隣さんどころか下の階からも文句がきそうだ。

「も、申し訳ござらん……」

 そ、そんなにしゅんとされると文句言うにも言いづらいんだけど。

「あ、のさ、旦那……さん?」
「それは……某のことでござるか?某は真田幸村と申す」

 某っていつの時代でしたっけ?
 いや、嫌も使っているちょっと変な人はいるよ、うん。

「えと、わたしは。電話の……さっき話してた人って知り、合い?」
「佐助でござるか?佐助は某の忍だ」

 忍?しのび、SHINOBI……?忍者、ですか?
 あの100%の勇気が必要だといわれる幻の職種ですか?人体の神秘を超えた存在のアレですか?
 いやいやいやいやいや、え、え、どうしよう。

 リリリリリッ

 突然なった着信音に真田さんが吃驚する。
 でもそんなの関係ねぇ。
 ディスプレイに映った名前にわたしは迷わず出た。

「もしもし、!?」
、今からそっち行くわ。あんたん家の最寄り駅って……』
「そこに佐助はいるのでござるか!?」

 うるさっ!?

「ちょ、勝手に近づかないで!っていうかケータイ奪わないでってば!!その佐助さんって人の事も聞いてあげるから!ね?お願いだから返して!」

 うぅ、手を伸ばしても届かない。
 無駄に身長高いなこの人!

『真田幸村!!』
「は、はい!」

 ひぃっ!がキレたっ。
 正直が切れると怖い。取り返しがつかないくらい怖い。高校のとき都市伝説に成り上がっちゃったくらい怖いのだ。
 何をしたかって、……………そんなことわたしの口からはとてもじゃないが言えない!!言ったら消されてしまう!!

『あんたはそれでも兵を束ねる武将か!状況を冷静に読み、次なる一手を生むのが己が役目でしょう!!』
「はっ!」
『分かればよし!に代わって』
殿、その、申し訳ござらん」

 うん、君謝ったの今日で二回目よ。
 恨み言は後にして、わたしは真田さんからケータイを受け取った。

?」
『あ、?』

 あ、普通の声だ。よかった。本当によかった。わたしは今世界最大級の安堵を手に入れてるよ。
 ほーっと息を吐く。

「相変わらずぶちギレると何でもやるね。わたしにも聞こえたよ、声」
『うっさいわ。ちょっとは頭冷えた?』
「うん、ありがと」

 その後にうちの住所と最寄り駅を教えた。駅まで迎えにいこうか、と聞いたら、そこにいる真田幸村ってひとりで放っておいて大丈夫なの?と問われ、ごめん、無理としかいえなかった。一通り話し終えて電話を切る。

「ふぅ……ごめんなさい、取り乱してて」

 いつの間にか床に座り込んでしまっていたみたいで、わたしは真田さんにぺこりと頭を下げる。
 なんだかこの部屋に違和感のある存在だ。

「いや、某も同様故申し訳ござらん」

 真田さんは正座をして額を床に……ってそれ土下座やん。

「えええっ!?いいから!そこまでしなくていいから!
 えっと、お茶!お茶出すから頭上げて!ね?」
「しかしっ」
「しかしもクソもないわぁ!さっさと顔上げろ!」
「しょ、承知」

 とりあえず何か飲もう。そうしよう。叫び疲れて喉が痛い。
 わたしは立ち上がって冷蔵庫へ向かった。
 麦茶なら平気だよね。お客様用においてあるコップと自分のコップに注いで持っていく。

「とりあえず、これ飲みながら少しお話しましょう。 
 お互いよく分かってないことだらけだし、ね」
「これは?」
「え、麦茶だけど」
「麦の茶でござるか?」

 ……すまん、よ。早く来てくれ、ほんと。
 わたしは変質者を前になんと言う言葉から切り出そうか本気で迷った。







※バックブラウザ推奨





2008.02.23