ゆめまぼろしのうつつ
〜合流、したはいいが...〜
電車で数駅通りすぎ、の家の最寄り駅に着く。
確かこの駅は駅前にデパートがあったはず。あたしは改札を出るとまっすぐデパートへ向かった。
あたしが足を進める先は男の服売り場。
少なくともあたしの知り合いに忍はいないが、というかいるわけもないが、現代にも忍がいるんならあのお兄さんは一般人として過ごした方が楽なはず。たぶん。の家の真田って人も聞くところによると変な格好らしいし、最低限の衣類くらいあった方がいいだろう。
安売りの4枚入り下着と赤と明細柄のシャツを一枚ずつ。ズボンはジーパンで許せ。半裸にジーンズがアメリカンスタイルだ。ここは日本ですがね。
サイズ?入らなかったらが直してくれるよ。
あとは歯ブラシなど生活用品をカゴに入れ、会計を済ませてデパートを出た。
の家までこっからどんくらいだろ。携帯のナビをつけての家の住所を入力した。
ナビに従い歩くこと10分。
「いいとこ住んでらっしゃること」
セキュリティの高そうなアパートだ。綺麗だし。くそう、さすがは社会人、強いな。
あたしは入り口のインターホンにの部屋番号を入力した。
『!待ってたよ〜!』
幾分明るい声が聞こえて自動ドアが開く。
どうやら混乱は収まったみたいだ。機嫌も良さそうだし、真田って人と仲良くなれたのかな。
自動ドアを踏んで止まる。
「ついてきてます?」
「もちろん」
間髪入れずにとなりに忍が現れた。
ちらりと見上げれば得意気に笑うお兄さん。
「もう忍ばなくていいですよ」
言うと肩をすくめられた。忍び甲斐があったのかな、現代。
階段を上って、の部屋の前のチャイムを鳴らす。
バンッ!
扉が思いきりこちらがわに開いた。やっべ、当たるわー……なんて考えてたのにギリギリで当たらなかった。
あれ?
なんだ、この腰に巻き付いてる手。
手から腕、肩へと目を持っていけば忍のお兄さんのにっこり顔。かっこいいとは思うが、初見が初見だけに素直に身を任せるのは気が引ける。
「ありがとうございます」
「どーいたしまして」
するりと抜け出し、あたしは扉ではなくのタックルを受け止めた。
「ーーっ!」
「あんたはもうちょっと大人しく客を出迎えられんのか」
べしっと頭を叩いてやる。が、この程度でめげる女じゃないと言うことは重々承知している。
「まぁ、入って入って!そっちのお兄さんが猿飛佐助さん?」
「らしいよ」
「どーもー、うちの旦那がお世話になっちゃってごめんねー」
遠慮なく部屋に入れてもらう。チッ、やはりこっちのが部屋広いし。いつかあたしも引っ越してやる。
の部屋は性格に反して簡素なものだった。聞いたら、物があると物をなくすから、と真顔で言われた。そんなもんだろうか。
「殿?……!!佐助!!」
「真田の旦那、大人しくしてた〜?」
……赤いわ。
あたしの真田幸村を見た第一印象がそれだった。服が赤い。とりあえず赤い。でもって半裸。が子犬のような目と言ったけれど、忍のお兄さんにジャレつく様は遊び盛りの大型犬にしか見えない。
彼はあたしに気付くとこちらをまっすぐ見てきた。キリッとすると結構かっこいいかもしれない。
「そなたが殿でござるか?」
「ああ、はい、そうです。です。よろし…く?」
あたしは目の前の状況にはたと固まった。
何故?
いや、名前を知っていたことはいい。それはが教えたんだろう。そんなことよりも何故、
真田さんは土下座されているのでしょうか。
あたしは何度も言うように生まれてこの方一般ピーポーで、特になんの変鉄もないおなごなんですが、この武将様は気でも狂ったんだろうか。
「某、感服致しました!」
何が。何に。なんで、どうして?
あたしを見上げてくる真田さんの目はキラキラと輝いている。キラキラ光線でも撃てるんじゃないかと思うくらいに眩しく輝いている。
あんたのその目にあたしがどう写っているのかが激しく不安です。
「取り乱した某を叱ってくださったあの凛々しきお声!まさにお館様の生き写し!もっと某を叱って下されぇぇえっ!!」
「……あの、すみません、あたしそっち系の趣味ないので」
SMはまだ早いと思うの。っていうかやる気もないし。何この変な人。
「旦那、引かれてるよ」
「幸村って見てて飽きないよね〜」
こら、そこの他人事の二人、何とかしなさい。と、心の中で言ったところでとどくはずもない。
「改めまして、某、真田源二郎幸村でござる!某が忍、猿飛佐助が世話になり申した」
世話ってほどの世話してない……よ。初めの脅しは……ノーカンにしてやろう。真田さんに免じて。マジ怖かったけど。
携帯投げ飛ばしたことも許してあげるよ、仕方ないから。
でも名前は呼んでやらん。実は結構根に持つぞ、あたし。
「……ええと、世話というほど世話してないですから、顔上げてください真田さん」
「某のことは幸村とお呼びくだされ!敬語も不要でござる」
「は、はぁ……」
もしや、なつかれた?
これでもイヌネコ類いには結構モテるしなぁ。
「はいはいはーい、お茶飲みながらにしよ?」
「ナイス、」
「はっは〜、もっと誉めろ!」
調子づくな、と小突いてあたしたちはの家のテーブルを囲む。
「えっと、幸村さんもここが未来だってことは聞いた?」
「うむ」
ってことは説明不要じゃん。
未来なんでってことで何でも納得してくれないかなー。
「ふたりはこれからどうしたいの?」
が尋ねると幸村さんと忍さんは顔を見合わす。
「どうにもこうにも、帰りたいんだけど」
「お館様に心配をお掛けしてしまいます故……」
そうして言葉を濁す。
じゃあ帰れと言ってやりたいとこだけど、帰り方が分からないらしい。
「こちらに来るきっかけのようなものはありました?」
「某、団子を食っていただけでござる」
時空を越える団子が戦国時代にはあるのか。
「その旦那が目の前でいきなり消えちまったと思ったら俺様もこっちにいた」
……団子が原因じゃないんだね。ちょっと残念。
にしても目の前から消えて、その次に目に入ったあたしにあれだけ殺気向けるもん?刃物突きつけるもん?非常識だ。
それだけ幸村さんが大事なのかもしれないが未だに謝罪がないのはなんたることだ。
「それだけじゃ原因は分からない、か」
「突然来たんだから突然帰れるんじゃない?」
気楽だなぁ、。と呟くが、正直あたしもそう思う。
「行く場所も宛もないだろうしねぇ」
「これもなんかの運命ってことで、わたしたちで養ってあげましょう」
「養うって、まあ……そうだね」
ほっぽりだして事件起こされたらたまったもんじゃない。
実害はないけどなんだかすっきりしないじゃないか。
「そ、そのようなことはできませぬっ!」
「そうだよ。それに俺様たち男だよ?」
女には見えませんね、残念ながら。
「帰れるまでの間いればいいんじゃないですか。それに男とか女とか言ってる方が安全だよ。ね、」
「そうそ!困ったときはお互い様!袖触れ合うのもってね!出てきた家にご厄介になっちゃって」
そうか、やっぱりあたしが忍の兄さんの受け持ちか。
仕方ないな。
「んで、その袋なに?」
「ああ、生活用品。これ幸村さんのでこっちが忍さんの分」
「おおぉ!ナイスじゃんどんなの買ってきたの?」
「下着2枚と服一式ずつ、あとは歯ブラシとかかな」
「マジで?悪いね、学生上がりなのに」
「じゃ、今日の夕飯おごれ」
「オッケ〜、折角だからあとで外行こ」
ぽんぽん話を進めるあたしたちを野郎共はポカンとしてみている。女ってのはね、最強生物なんだよ。
「俺様、まだ何にも反論してないんだけど」
に目をやれば、任せたのアイコンタクト。
オーケー、任せとけ。
「こちらを覆せる要素をお持ちならどうぞ?」
「言ったと思うけど、俺様これでも旦那の忍な訳」
「それで?」
「俺様は旦那の傍にいたいってこと」
「何がなんだか分からない現代で肌身離れずいたいと言うことですか?」
「表現は怪しいけどそんなとこ」
わざとですが、何か。
「……いくらこの部屋広いからって三人は無理とは思いません?」
「別に部屋にいるとは言ってないし」
「外で野宿でもするつもりですか」
「うん、それでいい」
ため息をひとつつく。
それに笑ったのは忍のお兄さん。
それで舌戦に勝ったつもりかな。悪いけど、このため息はただの呆れだから。大体あんたがこの状況で勝てるわけがない。
目を細めてお兄さんを見る。
「あたしから言わせてもらえば、異性の不審者を二人も親友の側に置くのは反対ですね」
「信用ないなぁ〜」
はん。よく言うわ。
わたわたしてる幸村さんを見て、のんびりしてるを見て、忍に目を戻す。
「いきなり現れて人の首に刃物突きつける人を警戒しない訳ないじゃないですか」
忍がゲッと言うような顔をした瞬間、ガタンと幸村さんが立ち上がる。
「佐助、お前は殿に向かって何を!!」
「はい、幸村、どーどー」
「殿!?某、馬ではござらん!」
忍さんと一緒にあたしはになだめられる幸村さんを見て、また向き合う。
「自分の近くにいる分にはいいわけ?」
「見えないところにいる誰かの心配を始終しているよりかはマシでしょう?」
賢いあんたなら尚更分かると思いますけどねぇ。という視線を向ける。
「……わかった。俺様の負け。おとなしくあんたんちに世話になるよ」
「話ついたよ、。ご飯行こ、お腹減った」
「はいよー、じゃ、二人ともが買ってきた服着ること!佐助さんは顔のペイントも落とすこと!」
「べいん……?これのこと?」
「そう、それのこと。来るまでにそこら辺の人見たと思うけど、そんな人いないでしょ?」
「じゃ、あたしたち外出てるので着替えたら出てきてください。着方が分からなくても気合いでお願いします」
「承知したでござる!」
「あと、幸村さん、あまり叫ばないでね」
「しょ、承知したでござる……」
そんなしゅんとせんでも。
本当犬みたいだなぁと思いながらあたしはと外に出た。
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2008.04.08