史上最強の初心力
甲斐の国で武将といえば、真田の旦那の他に必ずといっていいほど挙がる名前がある。
。
戦場で振るう刃は真田の旦那に負けず劣らず。
駆ける姿はまさに修羅の如く。
だが。
信じられないだろうけれど女の子だ。
正確には男装しているから他国どころか自陣営にも男として認識されちゃってるけど。まぁそれくらい勇ましいってことだよね。
時々本当に女の子なのかと問い詰めたくもなるけれど、正真正銘女の子なのである。
なんたって確認取ったの俺様だし。役得役得っと。
家の当主が没落して、それを継いだのがちゃん。けど、女が家督を継ぐなんて無理で、お家のためにと苦肉の策が男装、男に成りすましてのご奉公ってわけ。
年が近いせいか真田の旦那と気が合ったようで、意気投合。すっかり仲良しさんだ。……つい最近までは。
「佐助!!」
「はいよ」
呼ばれて姿を現せば真田の旦那が小難しい顔をしている。
……旦那が真面目な顔しているときなんて、碌なことないんですけど。
「お仕事?」
「いや、殿のことなのだ」
……うん、碌なことがない。
ちゃんは男の格好が似合いすぎるのが良くないんだよ。だから真田の旦那に女装癖がなんだのって、ブフッ……言われちゃうんだって。結構可愛い顔してるってのに気付かない旦那も旦那だけど。
「仲直り、したんじゃないの?」
仲直りしてやってよ、と言ったら「考えとく」とのお返事があったのはつい数日前。約束を違える子ではないし、何より旦那に惚れちゃってるちゃんのことだから何らかの行動はしたと思うけど。
旦那は口をへの字に曲げたまま、開こうとしない。
心なしか、顔が赤いように見えるのは、俺様の気のせいですかね。
やれやれ。
ため息をつきたいところをぐっと我慢して、黙り込んだ主の代わりに口を開く。
「なぁによ。の旦那がどうしたって?」
「う、む」
だからなんで顔を赤らめるかな!!
雰囲気的に誰かに覗かれたらいらぬ誤解を受けそうだ。ちょっと、もうホントに勘弁してよ。
表面平静を保って原因を考える。
が、考えるまでもない。どうせ原因はちゃんだ。
「その、だな、殿が話しかけてくれたのだ」
「じゃ、良かったじゃない。それともまだ怒ってそうだったとか?」
「いや、殿は悪くないのだ。その、俺が……」
なんなんだよ。そこで止めるなよ。
言葉足らずな旦那の話を総合すると、だ。
仲直りはした、けど、何か問題が生じている。その問題が旦那にあるってことか?
言葉を捜すように唸っていた旦那がまた口を開く。
「殿と、話していると、おかしくなってしまう」
「ハァ?」
「あ、呆れたような顔をするでない!!」
いや、そりゃ呆れますって。
「べべべ別に殿に対してやましい感情を抱いているわけではないのだ!殿の菓子類に手をつけたことなどないし、武器を壊してしまったわけでもない!何もしていないのだ!だというに、殿と言葉を交わすだけで、俺はっ!!うぉおおおお!!」
どうしたらいい!?
真田の旦那に詰め寄られて、むしろ俺がどうしたらいい、と聞きたくなる。近いよ。ってぇかなんだよ、その突っ込みどころ満載のお言葉はさぁ。
「ちょっとちょっと、旦那落ち着けよ。
はい、離れて離れて、そこ座んなさい」
べしっと頭に手刀を落とさせていただいて、旦那を落ち着かせる。
座布団を指せば、頭を摩りながらもそこに座った。
「で、具体的にはどーゆー風におかしくなるの?症状聞かない限りは俺様もどうしようもないんですけどー」
落ち着いたところで話を戻してみる。
なぁんか、嫌な予感がするんだよなぁ。
旦那は顔を赤くしたままポツリポツリと話し出した。
「むぅ、妙に緊張してしまうのだ」
はぁ、緊張ねぇ。
「殿がいると、心の臓は煩いほど早く打ち立て、思うように言葉をつむげぬ……」
……………。
「そればかりか、何をしたわけでもないのに顔は熱くなるし、殿が他の者と話しているだけで、胸が苦しくなるのだ」
……………………………。
え、コレ、笑うとこ?
つまり、そういうわけでしょ?
一瞬、前田の風来坊の顔が頭の中をよぎった。
「恋、しちゃってんのねぇ」
つむぎなれないその言葉はやっぱり口から出すに違和感を伴う。
呟きにも等しかったというのに、真田の旦那はガバッと顔を上げてきた。
「だがっ!殿は男であろう!?」
まだ言ってるよ、この人。いい加減気づけよ。肉付きからして女の子だっての。いや、言われないと分からないくらいの男っぷりだけどね。
っていうか、男とか女とか、問題そこ?恋しちゃってるの認めちゃうわけ、あの真田の旦那が?
ちょいと探りを入れてみますかね。
「男だったら駄目なわけ?」
「ぐ、いや、そうではなくてだなっ!!」
「ならいいじゃない。そういうのに性別云々関係ないっしょ。ま、でもよかったね、当のちゃんが女の子で」
「は?」
あれま、ほんとに気付いてないよこのお人。
でもアレかな、無意識に意識しちゃってたのか。
やれやれ、世話のかかるお人らだ。
「いやー、これで旦那も晴れてお嫁さんもらえるんだ?俺様大感激ー」
「さ、佐助?何を申して……」
「ま、幸せにしてやんなよ」
もー、付き合ってらんないっての。
何が楽しくて主の恋バナ聞かなきゃなんないんだよ。
そこまで面倒見るのは忍の仕事じゃありません。
「佐助ぇ!どういうことだと聞いておろう!!」
「旦那、俺様嘘言ってないよ、一言もね」
後は自分で考えな、と突き放して天井裏へ消える。
旦那がまだなんか下で喚いているけど知ったこっちゃない。たまには自分で考えろ。
感じ慣れた気配が旦那の部屋へと向かうのを察知する。
心配で――なんだかんだ俺様、旦那に甘いよな――しばらく聞き耳を立ててみると、
「幸村ー?」
「っ!?は、は、破廉恥でござるぅうううう!!」
「何が!?」
真田の旦那の叫び声、ちゃんの叫び声、ついでに襖の破壊された音と廊下をどたばたと遠ざかる足音。
……主の春は、当分先と見た。
+++あとがき+++
えっと、ようやくスタートライン?
この後の収集をどうつけようかいまだに(ry
結局は、両想いってことっすよw
段々タイトルが適当になっている件についてはノーコメントですv(ぇ
※バックブラウザ推奨
2008.08.17
加筆修正2008.08.18