夢話-夢小説の間-




クリスマスの贈り物




 朝食を昨日の残りのお好み焼きで済ませ、洗い物を諸葛に押し付けている間に私は男物の服を開封していく。
 一応洗濯はしてあるし、丈も同じくらい。ま、タダであげるっつってんだから文句はないでしょう。

「終わりましたよ」
「あ、ご苦労様ー。じゃあこれ」

 現れた時の衣装を数枚剥いだような格好+エプロンという面白い姿の諸葛に、現代洋服を押し付ける。

「なんです、これは?」
「服。それに着替えてね。でないと一騒動起きるから」

 あの格好で出られたら間違いなく警察行きだよ。コスプレして普段着と豪語して歩いていいのはゴスロリくらいでしょう。
 私もパジャマから普段着に着替えるべく部屋に戻る。
 あ、念のため……。

「着方って……わかる、よね?」
「形から想像はつきます」

 ならよかった。本当によかった。男の着替え手伝う趣味ないからね。
 胸を撫で下ろして私は部屋に篭った。
 さて、何を着ていこうかな。折角だからおしゃれでもするか。今日のために買っておいた服を引っ張り出す。私にしてはかわいめのワンピース。

「……むかつきがぶり返してくるのはきっと気のせいじゃないよねー」

 まぁ、いっか。服に罪はないわけだし。
 着ると普段スカートを履かないせいか余計不思議な気分になる。

「ダメだ、ジーパンも履こう」

 ほらだって、寒いし。そう言い訳してワンピースの下にジーパンを履く。うん、変じゃない。上にカーディガンを羽織って、その上にコートでも着ればいいっしょ。

「諸葛ー、着替え終わった?」

 ひょっこり部屋から顔を出す。
 と、私は固まるハメになった。

「……かっこいい」

 素で呟いてしまった。

「はい?何か言いましたか?」
「いや、ホントかっこいいなって思って。似合うじゃん」

 手放しで褒める。
 いやだって、ホント、かっこいいんだもん。
 いいなぁ諸葛の奥さん。

「ちょっと椅子座ってもらっていい?」

 私の指示に従って彼は椅子に座る。
 それを確認すると、諸葛の長い髪を手に取った。
 くそ、女の私よりもいい艶しがやって……。
 櫛で梳いて……みつあみにでもしてやろうかしら。思ったら止まらないのが私。
 手早くみつあみに仕上げると……これも存外似合っていた。

「うん、どっからどう見ても現代人ね」

 これで捕まる心配はないでしょう。 

「よし、出かけるわよ!ケーキも取りにいかなきゃだし」
「けーきとはなんです?」
「お菓子です」

 打てば響く勢いで答える。
 ケーキ、ケーキ♪予約してあるケーキ♪
 財布を鞄に突っ込んで、右手に。左手は諸葛をひっ捕まえて、家を出る。

「な、引っ張らずとも歩けます!」
「いいじゃん、いいじゃん、腕も組む?」
「意味が分かりません!」
「意味なんて特にないに決まってるじゃん」

 にかっと笑ってやれば、

「はぁぁぁあああ……」

 ……そんな重々しいため息を着かんでも。
 ま、気にしない気にしない。

「かっこいい顔してるんだから、その辛気臭いツラやめなよ」

 ね?と首を傾げる。

「……………」
「ほーら、そういう顔だよ、そういう顔!
 まったくもー」

 ホント、固い男。そこまで口を歪めて眉をきゅきゅっと寄せなくたっていいじゃないか。
 ま、面白いからいいけど。
 むすーっとしながら街を歩く諸葛と対称に私はにっこにこなのである。
 外に出ると驚きの連発だったのか道路を走る車に、線路を走る電車に、ビル群が聳え立つ街に目をきょろきょろさせていた。こういうところは結構かわいい。

「ほら、きょろきょろしてたらスリに合うよ」

 滅多にいないけど。

「そのように注意される年ではないのですがね……」
「1800年も前の人なんて赤ん坊通り越して化石よ、化石」

 ああいえばこういう私に諸葛はため息をつく。
 そろそろ言葉でどうにかなるような相手ではないことを悟ってきたらしい。次に口を開いたときには新しい話題だった。

「今日はやたらに男女の組を見かけますね」

 何かあるのですか、と横目で聞かれる。

「あーーー、そか、知らないのか」

 それもそうだ。
 今日は12月25日。世間的にはクリスマスといって大切な人と過ごす日。昨今はイブのほうがいちゃこらする日なのか?どうでもいっか。
 それを1800年前のキリスト教も伝わりきっていない中国からやってきた奴が知っているわけがない。
 いや、知ってたら逆に怖いんだけどさ。

「んーとね、遠い国にキリストって言う神様がいて、今日はその生誕を祝う日で、この国ではめでたいことにはとりあえず大切な人と仲良くしておけ、みたいな風習があるのさ。
 ま。お出かけしたり、ケーキ食ったり、七面鳥食ったり、祝い方はそれぞれだけどね」
「それでけーきとやらを?」
「あぁ、もうケーキ覚えたの?」

 苦いことを思い出させてくれる。
 ふいに横切ったのは「誕生日のケーキ、予約したから」と照れ笑いを浮かべる野郎の顔と、「ごめん」と言った同じ野郎の顔。
 ったく、自分で取りに来て新しい子と食っちゃえばいいのに。
 最後まで、生ぬるいんだから。

「午後になったら取りに行こうかな。
 夕飯の買い物して、ケーキを取りに行って、あとー……。うん、これからプレゼントを買いに行こっか!」

 ね!と笑いかけるときょとんとした顔になる。

「ぷれぜんととは何ですか?」

 はい、横文字使った私が悪うございました。

「プレゼントって言うのは贈り物のこと」

 苦笑しながら私は歩き出す。
 プレゼントっていうからにはちゃんと諸葛にあげますよ。もちろん、私のも買うけどね。
 デパートを練り歩いて、諸葛を引っ張りまわす。お昼ご飯は折角なのでイタリアンにしてあげた。だって、現代来てまで中華食う必要ないじゃん?
 ま、これくらいの美青年様ですから周りの注目を集める集める。独り身の乙女たちからの目線が痛いこと……。
 ちなみに諸葛へは時計を、自分へは諸葛に選ばせてブレスレッドを買いましたとさ。
 その後は夕飯の食材を買い込み、ケーキを取りに行った。

「予約、と言うのはあらかじめ申し込んでおく、と言う意味ですよね?」

 ケーキを引き取った後の帰り道、すっかり暗くなった道で諸葛が尋ねてきた。
 予約とはもちろん書いて字の通りなので私は肯定する。

「くりすますとやらだからですか?」
「んーーー、まぁ、今日は私の誕生日でもあるからね」

 だから、プレートにはメリークリスマスではなく、ハッピーバースデイの文字。予約してくれたのは、私じゃないのだけど。

「これをお一人で?」

 うっ。
 ちょっと詰まったところに、明らかにお一人で食べる量ではありませんね、と追い討ちをかける始末。さすが有名な天才。鋭いところを突いてくる。

「最初は二人の予定だったの!
 ま、結果的に二人になったからいいのいいの」
「何故ですか?」

 うぉー、空気呼んで欲しいだけど。
 じとーっと諸葛を半眼で見返し、はぁ、とため息が出た。

「彼氏に振られたんだって」
「『かれし』とは何ですか?」
「恋人の事ー。男を彼氏、女を彼女っていうんですー」

 言葉尻と空気読もうよ、天才でしょあんた、と悪態をつく。
 そうですか、とわざとらしく興味を引っ込める。
 狙ってやっているのかそうでないのか困るところだ。

「まったく……」

 ふと、信号が青になっても動かない諸葛に目をやる。
 どうやら空を見上げているようだった。
 顔の形は結構好み。だから見ている分にはいい目の保養だ。
 性格は勘弁していただきたいけれど。

「どした?」
「いえ、空が……狭いのですね。星が見えない」

 言われて、あぁ、と空を見上げる。

「そっか、そっか。そうだよね」

 諸葛の時代には人工の明かり(まぁ蝋燭は除くとして)なんてなかったしね。
 電気というエネルギーが発達した現代で夜はもう眠りの時間ではないのだ。
 昼夜働き、動き続ける。
 そうして世界中どこにでもいけるようになった今、情報はものすごいスピードでやり取りされている。

「何を、そんなに急いでるんだろうね」

 諸葛の時代はそれこそ馬で伝令とか、世界一周してたら何年、何十年もかかっちゃうような時代。それが今や地球の裏側まで1日で行けてしまう。

「急がなくても、生きていけるのに」

 義務教育も、どこかレールに沿ったような人生も。
 就職活動に励む学生も、会社に通うサラリーマンやOLも。
 本当に田舎に行って一年を一年というサイクルで生きる生き方だってあるのに。いや、それが本来の農耕民族の生き方だと言うのに。

「それが、人という者の性なのでしょう」
「わかってるぅ〜」

 くすくすと笑って歩き出そうとしたら、信号がまた赤に変わっていた。

「星、ねぇ……」

 天文学が発達した今となっては、星がどうやって出来ているとか、実際今見ている星は何十年前のものだったりとか、ロマンを感じられない。
 昔は星を見て運勢とか見てたんだっけ。

「ねぇ、私の星はどれだと思う?星読めるんでしょ?」
「知りませんよ、そんなもん」

 間髪いれず返答が返ってきた。
 いや、そんなもんって。

「勘でいいからさ」
「あれでいいんじゃないですか?」

 投げやりに示された方向。
 それは闇の中にこれでもかと言わんばかりに光る星。

「あれって、あの一番明るいの?」
「そうです。貴女くらい騒がしい方はあの程度の輝きではまだ足りないとは思いますが」

 あれって、ちょ、天文全然勉強していなかった私でも分かる星の名前だよ。
 昔々、船乗りたちが道標にしたという星。
 その名は――――シリウス。
 幾多も数多もある星の中で、一番輝きを持つと言われる星。

 それはちょっと買いかぶりすぎなのでは……?

 ちらりと横顔を盗み見るけれど、相変わらず諸葛は涼しい顔。
 ある種告白だけれど、全くそんな気はないんだろうな……。
 やれやれと呆れのため息が出る。

は私の道標ですし、ね」

 ぼそりと耳元で呟かれた。
 初めて名前を言われた……じゃなくってっ!!
 
「な、ちょ、このっ!」
「ほぉ、そういう顔もなさるんですね」
「っ、悪趣味男!」

 くすくすと笑われて、でも、悪い気はしない。
 しないんだけどー……。

「あー、もう!さっさと帰るわよ!」

 どうにももどかしくて自棄っぱちに叫んだ。
 その日は夕飯を食べて、ケーキを食べて、お酒を飲んで、飲ませて何だかんだ気づいたらベッドの中にバタンキューしていた。諸葛がベッドまで運んでくれたような記憶もあるような、ないような。思っていたより諸葛が酒に強いことに吃驚した。





 朝――というかもう昼だったけれど――起きたら、あんたの寝床ね、と言い渡したソファに彼はいなかった。
 そこにはただ、朝日が差し込んでいるだけ。

「なんだ、一日にして帰っちゃったのか」

 あいつが寝ていたソファにぼすんと座る。
 つまんない。
 ちょっと、寂しい。……ううん、大分、寂しい。
 でも、

「いい、クリスマスだったな」

 もしかしたらサンタさんからのクリスマスプレゼントだったのかもしれない。
 イブに来て、クリスマスという一日を一緒に過ごして。
 昨日買ったブレスレットが寂しげに朝日に反射する。

「ふふ、夢ではない、か。
 プリクラくらい撮っとけばよかったかなー」

 あはは、とカラ笑いが漏れた。
 今日は、動く気にはなれないな。ぼけー、としばらくそこで呆けていた。



















 ……ガチャ

「おや、起きていたのですか、 ?」

 バッと振り向けば相変わらず何とも言いがたい涼しげな表情でたたずむ諸葛。
 私も私で結構変な顔をしてたんだろう。
 私を見た途端、野郎も変な顔をしやがった。

「あんた…………何してんの?」
「何って、ゴミ捨てですよ。やれって言ったの貴女じゃないですか」

 そういえばそんなことも言った。

「さて、それでは朝餉にしましょう」
「え!?あんた朝飯なんて作れるの!?」
「失礼ですね。昨日の の見よう見まねですよ」
「くっ、このデキスギくんめっ!」

 何はともあれ、しばらく私は幸せかもしれない。
 ……いいや、幸せだ。






End.







+++あとがき+++
珍しい感じのテイスト……?
そうでもないか(笑)
素敵なクリスマスをお過ごしください♪

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2007.12.17