夢話-夢小説の間-





想いが止まらない






 どうもこんにちは。今日も今日とてあたしは自分の能力最大限に活用してシャルティエ少佐をストーキングしています。え、仕事ですか。ちゃんとしていますよ、シャルティエ少佐の呟きをBGMにしながら。もう愛ですね、愛。溢れて止まりません。
 最近のシャルティエ少佐のブームはどうやらラディスロウに居座っているネコさんに愚痴を聞いてもらうことのようです。
 もちろん私にはピンからキリまで筒抜けですけどね。
 ディムロス中将閣下に追いつくにはどうしたらいいかとか、ポジティブに生きるには何が必要か、なんて。もう少佐ったらその悩み事あたしが聞き始めてからそれぞれ103回と97回目ですよ。
 人には言えない内なる想い……嗚呼なんて素敵なんでしょう。

「あ」

 シャルティエ少佐の愚痴と不幸とあたしからの愛の旋律を奏でるノートがどうやら最後のページを迎えたようだ。
 ぱらぱらとノートをめくって余白を探すけれど、あたしから少佐に愛をこめてつづるノートだけ合って隙間はない。流石、あたし。グッジョブ、あたし。
 でも、またイクティノス少将に支給してもらわないと。
 ええっと、これで……12冊目か。
 今はイクティノス少将は……いるみたい。あたしは少将の部屋へと歩き出す。この時間は会議って言っていたのに……。ああ、早く終わって資料のファイリングしてるのか。
 シャルティエ少佐は……いない、か。残念なような、ほっとしたような。
 扉についた装置に暗証コードを打ち込む。

「失礼致します」
「ああ、君か。何か緊急の用でもあるのか?」
「緊急です」

 シャルティエ少佐の行動がメモれないだなんてものすごい緊急ですよ。
 ちらりとだけこちらを見てファイリングしながら少将は先を促す。

「すみませんがノートの支給お願いして良いですか?」
「またか……。まあ、いいだろう」

 言って少将はあたしに13冊目になるノートをくれる。
 くれながら、少将は「そういえば」と口を開いた。

「君がノートをとっている姿は見るが、見せてもらったことがないな」

 そういえばあのノートはつづっているだけで誰にも見せたことがない。
 いずれは少佐に、なんて考えているけれど、果たして人が読める字で全部書いてあるだろうか。ここはひとつ、予行演習的に少将に見てもらうべきかしら。

「見ます?」
「ああ、一応軍の支給品だからな」

 支給品とは言えどもあたしのところに回ってくるのって大抵がハロルド博士がちょちょいと何かをいじった再生紙ノート。消費が激しいせいで何冊目からかそれになってしまった。爆発しないか少し心配。
 そして言われて飛び出てとはまさにその言葉通りで、あたしはイクティノス少将の机の上にノートを12冊ほど乗せた。
 ちゃんといつも持ち歩いているのだ。だって外に漏れたら大変だもの。誰かがシャルティエ少佐に惚れてしまうかもしれないと思うと部屋の金庫においていくのも躊躇われるくらい。
 顔を引くつかせている少将は放っておいてあたしは一番上のノートを手に取る。

「ええと、一番初めのは……」

 シャルティエ少佐のストーキングはそう遠い昔からのことではないのですぐに見つかるはず。
 時系列順にしようとあたしはノートの日付を追い始めた。
 ……机や部屋を掃除しているとき、ふと出てきたアルバムやノート、本類を見つけてしまって、ついつい読みふける、なんてこと、よくあるよね。
 っていうか、なんて素晴らしい能力なのあたしの耳!今見返しても様々と情景が思い出せるわ。

「どうしましょう想いが止まらない、彼への愛を込めたポエムとラブレターがノート12冊分に!ちょっとこれ見てください!」

 あたしのびっしり思いの書き綴ったノートを思わずイクティノス少将に見せる。
 これほどまでに愛が溢れたノートたちなんてそうないですよ。
 力説するあたしにイクティノス少将は何を思ったのか、神妙な顔で「借りて良いだろうか」と言ってきた。一体何に使うのだろう。
 もしやシャイなあたしの変わりにシャルティエ少佐に伝えてくれるのだろうか。それはそれで存在を示すチャンス!?
 快く了承すると少将は足早に部屋を出て行く。

(盗撮・盗聴・ゴミ漁りの物的証拠ゲット。私は早足でハロルドのもとへと向かった)

 シャルティエ少佐はあと十数分戻ってこないようなのであたしはしばらくそこにいることにした。
 イクティノス少将を見送ってしばらく耳を済ませる。
 あたしの耳は少将の足音を追う。足音が離れていく方向からしてハロルド博士のラボのほうかな。けたたましく扉を開く音がして、続け様に少将の声が聞こえた。

「ハロルド!うちの部下を何とかしろ!いや、何とかしてください!!」
「無理ね」
「即答!?」

 うーん、イクティノス少将はあたしを一体どうしたいのだろうか。
 というか、聞こえてくるあのふたりのやり取りから――主に少将が騒いでいるだけだけれど――ノート返してくれないみたい。
 全部暗記しているから別に構わないのだけど。
 まぁいいか。
 あたしは早速と13冊目のノートを開いた。
 ノートが途切れたところから書いてないんだよね。
 はっ!そろそろ夕食の時間。それに今日はシャルティエ少佐を直接拝見してないじゃない。一大事だわ。
 今日は真後ろにしようかな。いつかとなりに座れる日が来ますように、なんて♪








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2008.07.04