夢話-夢小説の間-





沈黙の歌姫 〜戦〜








 アルメイダの村に着くとすぐにリオンは事情聴取を行った。既にモンスター増殖の噂は村中に広がっていたらしく、2,3人の村人をひっとらえるとすぐに発生場所は割れた。
 場所はすぐ近くの森。ストレライズ神殿へ続く道の周辺であるという。

「おい、行くぞ」
「(お腹空いた)」
「………」

 振り返ったリオンには簡潔に一言告げる。
 呆れた視線が返って来た。

「(お腹が空きました、リオンサマ)」
「………………………」

 無反応。

「(ぶーー)」

 が顔をしかめだすとリオンも顔をしかめた。

「おかしな顔をするな。品格を疑われる」
「(でも、お腹空いたの!)」

 両手を腰に当てて猛烈講義する。と、言ってもは話せないので口をパクパクと動かすだけだ。

「緊張感のない奴だ」

 当て付けのようにため息をつく。実際当て付けなのだろう。

『あれだけ朝っぱらから歩いて疲れはしないのにお腹は空くって……すごいですね、彼女』
「化け物並みの体力だな」

(こらそこ、聞こえてるから!)

 口パクだけでシャルティエにも伝わったのだろうかとは心の中で首を捻るが、そういえばマスターを介すればソーディアンも感覚を持てる、という話を呼んだような見たような聞いたような気がして納得しておく。
 その後はリオンに急かされながら宿の食堂で食事を取り、再びのブロッコリー&にんじん交換大会が開かれたことを追記しておこう。






 村人から聞いた情報を元にとリオンは森の中に足を踏み入れる。
 の記憶が正しければストレライズ神殿へと向かう森だ。リオンとはぐれたら間違いなく迷子になるだろう。
 はぐれないようはリオンだけは見失うまいと彼との距離を縮めた。

 ――と。

『坊ちゃん、気をつけてください。こちらに向かってきます。3時の方向です』

 先ほども聞いた青年――シャルティエの声が響く。それに応じてリオンが向きを変えた。
 その瞬間、横をがすり抜ける。

「なっ」

 リオンが驚き、勝手な行動をするなと口にしようとしたのは引っ込んだ。
 スパン、とモンスターが一刀両断されていた。
 次いで現れるモンスターたちもたちどころに彼女の手によって切り伏せられていく。

 リオンは自身が総毛立つのを感じた。

 の刃を振るう姿は美しく完成されていて、圧倒的だった。そして――恐怖を感じる。己に牙を向くものすべてに無慈悲に下されるその刃に。そして、切り伏せるものたちをまるで捉えていない虚ろなその瞳に。

(僕より、否、下手したら七将軍よりも……)

 寒気がした。
 もし、彼女がセインガルド以外――アクアヴェイルやファンダリアで発見されていたら。
 何十体もいるモンスターをリオンに届かせるまでもなく一撃で葬り去る力、技能、立ち回り。
 間違いなく、脅威だった。

 モンスターの一掃が終わった後、は自分の切り捨てたモンスターたちの死骸を見やる。それらは徐々に空気へと霧散していっている。
 決して自分が殺そうとしたわけではない。だが、体が勝手に彼らを殺した。とどのつまり、やはり自分が殺したのだろう。そう思うとやるせない。大量殺人だ。人ではないが。
 しかし、いつか人も切らなければならないことをは知っている。
 血糊のついた刃を見、地面に転がるものたちを見、は静かに黙祷した。
 何十体もいたモンスターがモノの数分ですべてレンズと化して地面に転がっている。森に差し込むわずかな光に反射して地面がキラキラ光る。

(まるで……宝石の海みたい)

 じーーーっと見つめる。
 次第に身体がうずうずし始めるのをは感じていた。
 いや、これはもう本能だ。そう言い訳を自分につけて、は――

 せっせとレンズを拾い始めた。

「きっさまは……!!」

 振り返ればふるふると怒りに震えるリオンがそこにいた。

「(だって、綺麗なんだもん!)」
「またそれか!これだけの数どこに入れていくつもりだ!」
「(リオンも持って)」
「断る!」

 しつこいようだがは喋れない。
 見事なリオンの独り言劇場だった。

「馬鹿をやっていないでさっさと村に戻るぞ」

 ため息を吐き出すリオンにはむぅとしかめっ面を作る。
 そんなにはお構いなしに彼はさっさと歩き始めた。
 迷子になるのは困る、と判断してはレンズをズボンのポケットに入るだけ入れると後を追った。

「(今日はおしまい?)」

 が尋ねると、彼はちらりとシャルティエに目をやる。

『大規模なレンズ反応の集積はこの場だけですね』
「今回の任務が、だ」








 アルメイダの村に帰る道すがら、時々襲ってくるモンスターたちを倒しつつ、だけレンズを拾いつつ、彼女のポケットがレンズで溢れそうになった頃に2人は村に帰還した。
 リオンが前を歩き、がその半歩後ろを歩く。
 一直線に宿に戻るかと思いきや、彼は宿の前を通り過ぎた。
 違和感を感じ、は小走りでリオンの隣に並ぶ。彼女の足勝ちを蹴るたびにジャラジャラとポケットの中のレンズが音を鳴らした。

「(宿、過ぎたよ?)」

 追いついて尋ねれば、返ってきたのは一瞥。

(冷たいし〜……)

 口をアヒルのようにするから視線を外し、リオンは歩調を速めた。
 やれやれ、というようにはまた彼を追いかける。
 彼は一軒の道具屋に入っていった。当然のごとくも後を追って入る。どうやら雑貨屋のようだった。
 鞄が並ぶコーナーに行くとリオンはやっとを見た。

「おい、好きなものを選べ」
「(はぁ?)」

 の思考回路が停止する。

(何?何て言ったのこの子?え?はぁ?選べ??)

「ウエストポーチだろうがポシェットだろうがなんでもいいだろう。
 さっさとしろ」

 苛立ったリオンの声に、あぁと合点する。
 どうやらが歩く度に鳴るジャラジャラの音をどうにかしたいらしい。
 そのためにわざわざ雑貨屋まで連れてきてくれたのかと思うとの頬が緩む。

「(リオン優しい!)」
「なっ、さ、さっさと、しろと、言っただろうがっ」

 ぱぁっと輝く笑顔を振りまくにリオンは赤くなってそっぽを向いた。
 は上機嫌で鞄たちを見る。
 何分田舎にある村、品揃えは悪い。
 リュック、トートバッグ、ウエストポーチ、ただのポーチが1,2種類ずつくらいしかない。

「(まぁ、田舎だし)」

 はふらふらしながら鞄の間を揺れる。
 その内実用性がありそうなウエストポーチを選んだ。
 すると、横からそれをパシッと取られる。

「(え?)」

 振り返ると既にリオンがから奪ったそれをカウンターに出していた。

「店主」
「はい、まいど」

 目の前で硬貨とウエストポーチの売買が行われている。

(リ、リ、リ、リオンが買ってくれたーーー!?)

 ウソだ、ありえない、そんな馬鹿な、明日は星が滅ぶ。
 が口をあけてパクパクしていると、リオンのこぶしが飛んできた。

「(あたっ)」
「馬鹿が丸出しだ。控えろ」

 こぶしだと思ったそれは先ほどのウエストポーチで、ぽろっと落ちたそれを慌てて拾う。
 そして桃色マントを翻し、颯爽と去っていくリオンの後姿をジャラジャラ音を立てながら追う。
 雑貨屋を出たところで走って彼を追い抜かす。
 くるっとターンしてリオンの真正面から笑顔を向ける。

「(ありがとう、リオン!)」

 そうお礼を言えば、彼はそっぽを向いたまま鼻を鳴らした。

『よかったですね、坊ちゃ、あだっ!』

 そっぽを向いたままシャルティエのコアクリスタルをピンポイントで殴るという器用さを見せる。

「その音が不快だっただけだ。大体、ポケットなんぞに突っ込んでいては機能性も落ちる」
「(うん!)」
「理解しているのか?」
「(もちろん!)」

 さっそくとウエストポーチを腰に巻いてレンズを移し変えようとする。それはもちろん、あれをたくし上げるということで、

「部屋でやれ、部屋でッ!!」

 リオンの怒声が閑静な田舎町に響いた。







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2007.03.16