その間数分
貴様いつまでそうしているつもりだ、と胸倉を掴まれ空中に浮いてます。
わぁすごい腕力。片腕で私一人を浮かせるとか、どんなアスリート競技者ですか。
つーかこの体勢だと首が締まって話せないし、いい感じに天国へ駈け出していけそうである。
「三成君、その手を放したまえ」
「はっ」
凛とした声に反応してぱっと手が離され、自分の身長分、その場で垂直落下する羽目になった。
殺すなら殺す、殺さないなら暴力振るわないんでほしいんですけど。
「すまないね、こちらも状況がよくわかっていないんだ。
悪いけど色々と吐いてもらうよ」
顔を上げれて相手を見れば、白髪の麗人が微笑んだ。
その瞬間。
prrrrrrr
甲高い音が鳴り響く。無論私の会社携帯である。しまった電池を切り忘れていた。
鳴ってしまったが最後、電源が入っているイコール仕事ができる、ということで…。
ばっと戦闘態勢を取る人々に何とも言えない感情を抱きながら通話ボタンを押した。
「…はい」
『戻ってきてるな?今から社に来い』
「公共の交通機関の終電は過ぎていますが」
僅かながらの抵抗を試みるが、
『タクシーあるだろうが、経費でいいから来い』
ですよねー。出張がえり、夕飯もまだなのに無情である。絶対辞めてやる。
しかし私は幸福で健全なる社畜。了承の意を返して電話を切った。
「死ね」
憎悪を込めてぼそっとつぶやいた声が届いたのか、不法侵入者は一歩下がった。
残念ながら私言霊使いじゃないんで。
そういう厨二的なのはるか昔に捨て去ったんで。
むしろ使えるなら電話の主に即刻使うんで。
旅行ケースをそのままに、ドアを蹴り破るかのようにあける。
「おい、貴様!」
「鍵はかけないから勝手に出てけ」
通帳判子は常に鞄と共にある。盗られて困るものなんて何もない。
敢えて言うなら電化製品くらいだがそれでも使わなくなって久しい。
嗚呼、明日はいや、もう日付的には今日だが、何時に帰れるだろうか。
つーか、帰れるんだろうか、帰りはさらに明日な気がする。
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2014.04.13