夢話-夢小説の間-





成立後のあれこれ






「さっそくだけど、いくつかいいかな?」

 結果的にいくつか、どころではすまなかったわけだが、生活に必要な質問に一通り答える。
 厠って…ああ、トイレのことね、とか。あれじゃあ、今までは…あ、いや聞かないでおこう。
 あ、お風呂入らないの?手ぬぐいでいいって……じゃあタオル使って、とか。
 くりや?なにそれ、ああ、炊事ね、キッチンね。水とガスの使い方と、家電も一通り。
 食料が芽が出た芋しかない?失礼な、カップ麺もカロリーメイトも蒟蒻ゼリーもあるだろ。芋は捨てておくけど、などなど。思いのほか育ってたな芋。

「ふぁ、こんなもんでいいっすか」
「ああ、ためになったよ。最後に一つ、僕らの姿は異様かな?」
「そですね、変です」
「貴っ様ァ!」

 何回目だろうが、じろりと抜刀男を睨みつける。

「そろそろ夜も遅いので静かにかつ論理的に抗議できないようなら黙っててもらえます?迷惑です。
 殺しても切りつけても構いませんけど、困るのはそちらじゃないですか?」

 麗人に対する声よりも不機嫌全開で当たりつける。
 学習しねーのかこの男。てめーだけ追い出すぞ。
 物凄い形相で睨み返されるが、生活環境を掌握していて且つ命を脅かしても揺るがない相手に対して顔と睨みで屈服させられると思っているんだろうか。

「やれ、三成、抑えよ。追い出されては敵わぬ」
「くっ」

 今度は包帯男が抜刀男をなだめる。
 おお、やっぱりいい声だなー、と思考がそれるのは疲れと寝不足と諸々だ。

「で、なんでしたっけ?」
「迷惑をかけてすまないね。外に出るのに不便かどうかを聞きたくてね」
「不便でしょうね。何か用意しましょう」
「ああ、助かるよ」

 この麗人はほんっと自分の美貌をうまく武器にするなぁ。
 綺麗に微笑む顔を向けられればたいていの人間が悪い気はしないだろう。
 イケメン爆発しろ。
 ふぅ、と、ため息をついて、ああ、と思い出す。

「あと、一個親切で教えてあげます。
 この国には法律があります。法を守らないものは罰せられます。
 この国は戦争を放棄しています。武器も国で厳重に管理されています。武力を鎮圧する組織があります。
 つまり、私にしたようなことを表ですると、大変面倒なことになります」

 忠告に背いて何が起きても保証しないし、いっそ掴まれ主にあそこの抜刀男。
 あ、じゃあ言わなくてもよかったな。
 でも世間は狭いから目撃情報からうちを割り出されても困る…いや、私そもそも部屋借りてるが寝に帰っているだけだ、忠告とかしなくてもよかった。
 だめだ、深夜じゃ頭回らない。

「まぁ、私を片手一本で軽々持ち上げる程度の腕力があるなら、充分自己防衛は可能でしょうけど」

 あれはすごかったなぁ、なんて思い出しながら告げると、くす、と優雅に麗人が微笑んだ。

「君が自ら進んで僕たちを助けることはしない、ではなかったのかな?」
「人の親切はありがたく受け取っておくべきですよ」
「ふふ、そうさせてもらうよ」

 いちいち人の揚げ足盗るのやめてください面倒くさい。
 さて、以上なら風呂入って着替えて寝よう。
 夜中の2時半、シャワー入って、と考えても布団で3時間は余裕。

「じゃ風呂ってくるんで、あとはお好きにどうぞ」

 服とバスタオルをクローゼットから引っ張り出してシャワーを浴びた。
 会社の近くの漫喫にシャワーはあるけど、やっぱり家で入るのが一番だ。
 何よりシャンプーが髪に合う。それに寝るのも漫喫では熟睡できない。
 シャワーを浴び終えて、髪を乾かして水分補給。
 ようやく自分の行動周期に戻せる気がする。
 明日のスケジュールを頭に描きながら、部屋に入るとソファの周りに固まって眠る体勢の異世界の人たち。
 ソファの上に包帯と麗人、ソファの背に背を預ける形で寄りかかる抜刀男。
 布団は要求されてないので今のところスルーでいいや。一式買うと高い。あと部屋の広さ的に三人分とか無理。
 明日起きて夢でしたーってオチならいいんだけど、まぁそんなことはないだろうな。
 そのまま横を通り過ぎて、布団に転がる。

「明かり、少し落としますねー」

 枕元のリモコンで照明を落とした瞬間ビクッとされたけど、電気の説明はしていたので抜刀されずに済んだ。
 携帯アラームをかけて目を閉じる。
 久しぶりの布団、という好条件に部屋の中に他人が、しかも異世界人がいる、ということも忘れて意識はすぐさま暗転した。






――家主シャワー中

「半兵衛様、なぜこの場に留まることをお決めになられたのです」
「三成君は不満かな」
「いえ、そういうわけでは」
「この世界が僕たちのいたところと違う、というのは分かるだろう。
 先ほど説明されたものもそうだけれど、迂闊に動くと最悪戻れなくなるかもしれない。
 それだけは絶対に避けるべきだ。わかるね」
「はっ」
「焦ってことを仕損じることはないさ。
 それまでは彼女の言う親切とやらに甘えさせてもらおう。
 吉継君もそれで構わないね」
「異論はありませぬ。が、」
「が?」
「見たところ部屋はここひとつ。
 われのようなものが半兵衛様と同室というのはいかがなものかと」
「かといって君だけ外、というわけにもいかないだろう。
 君も豊臣の今後を担う大事な将なのだからここで失うわけにはいかない。
 それにどうやら、僕らは君の声に救われたようだしね」
「……は」








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2014.04.14