夢話-夢小説の間-





お湯を入れて5分の魔法






 出来合いのおかずはレンジでチン。
 お湯を沸かして、ぺりぺりとカップ麺のビニールをはがしていく。
 作り方を教えてほしい、と言われたので麗人と包帯男と一緒に。
 作り方も何も…ビニール剥がして、薬味と粉末スープ入れて注いで待つだけなんだけど。
 割りばしを加えながら作業をしていたら、行儀が悪いよ君、と言われたけど無視。
 包帯の人が苦労していそうだからぶんどって代わりに取ってあげたら目を丸くされた。
 包帯だらけだからだよ。透明人間も大変だな。
 お湯を注いで割りばしをおもり代わりにしておく。

「包帯それで足ります?」
「ああ、充分よ、安心しやれ」
「…手首余らせてんのは、ファッションなんですか?」

 ひらり、と包帯が作業するのにつられて手首の余りが邪魔そうに動く。
 なんか、お湯とかひっかけそうで怖いんだけど。

「ふぁっしょん?」
「おしゃれ?飾り?気分?とかそんな感じです」
「ひひ、そうよな、ふぁっしょんよ、ふぁっしょん」
「ふーん」

 新しい言葉を覚えたらしい包帯は嬉しそうにそれを繰り返す。何がツボったんだ。
 異世界人のセンスは理解しかねるな。
 あ、それを言ったらお相子様か。

「お湯ひっくり返さないでくださいね。後始末は自分でやってもらうんで」
「あい、わかっておるわ」
「あ、5分、おっけーっすよ」

 ぺり、とふたを開けると横の二人から感嘆が聞こえた。
 いや、悪いけどただのカップ麺だから。
 と、注釈を入れようと思ったが、異世界からしたら珍しい品物なのかもしれない。
 すごいね、何と面妖な、と口々に感想を漏らす二人と、口に入れても大丈夫なのか、と心配する抜刀男。
 ずず、っとすすって見本を見せれば彼らもそれに倣った。

よ、われ相手に敬語はいらぬ。常の言葉で話しやれ。
 アレがうるさいのは半兵衛様に関するときのみよ」
「そう?じゃあお言葉に甘えて。
 おしゃべりが条件なのに口調制限とかwwって思ってたんだよね」
「わらわら?」

 真剣な顔で復唱されて口に含んでいた麺が飛び出しそうだったのを何とかこらえる。

「嘲笑するときの効果音」
「貴様愚弄する気か」
「あ、ごめん、つい癖で」
「君は癖で人を貶すのかい…」

 睨まれたり呆れられたりしたけど気にしない。私は通常運転です。
 ずるずるとカップ麺をすする麗人と包帯。
 ……包帯に、汁が飛び散っているけど、私は気にしない。新しいやつ買ってあげたんだからちゃんと自分で変えてください。
 抜刀男はその間ずっと刀を手に壁に背をつけてこちらを睨んでいた。

「ごちそーさまでしたー」

 汁まで飲みきってゴミ袋にポイする。
 あ、ゴミ出たらこんなか入れて下さい。
 分別…とか言っても通じないかなぁ、まぁいいか家庭ごみで。
 まるで子供ができたみたいだ。もちろんこんなでかい子供たちはいらない。
 しかし、数日前まで一人で広々と使っていた空間に3人もの異性が、しかも自称異世界の人がいるなんて。

「変なの」

 呟いた瞬間、チャキ、と物騒な金属音が聞こえた。あ、面倒くさいパターンだこれ。

「三成君」
「はっ」

 私がため息をついたのと、麗人が抜刀男を止めたのが同時でした、ナイス。

「意外に受け入れている自分がいるのが変なのーって思っただけですよ」

 ったく、いちいち物騒な男だな。
 さて、デザートデザート、と。
 お気に入りの茶葉で紅茶を入れて冷蔵庫からロールケーキを取り出して、もぐもぐ咀嚼。

「…それは?」
「お茶とデザートです」

 さらりと答えただけなのに、異世界人は衝撃を受けたらしい。特に抜刀男。くわっと目を見開いたかと思うと、

「茶が、緑でない、だと…!?」

 信じられない、とでも言いたげに紅茶の入ったマグカップを睨みつけた。
 そこまで大げさにするものだろうか、そんなに衝撃なんだろうか。私にはわからない。

「えと、緑茶はあるんですかね?  これは紅茶と言って……なんて説明すりゃいいのかな、赤いお茶です。飲みます?」

 紅茶の起源なんて知らないし、緑茶との違いもググらないとさっぱりである。
 カップごと差し出してみると、彼は香りだけ嗅いで幾分その真ん中寄りの眉を緩めた。……分かりづらいが、気に入った、のかもしれない。

「でざぁと、というのは?」
「そっちにはないんですかね、甘いものです」
「菓子か。団子や饅頭ならあるが」
「ふーん、和菓子か」

 そこでまた和菓子という言葉の意味の説明を求められ、ついでに洋菓子の説明をする羽目になった。
 なんか数字といい、お茶といい、お菓子といい、カタカナ苦手そうなことといい、昔の時代劇に出てくるような人みたいに扱えばいいんだろうか。








<Prev Next>

back





2014.04.17