夢話-夢小説の間-





スーパーと金銭感覚






 なんだかんだとやってまいりました24時間スーパーです。
 カートに籠をセットして店の中に足を踏み入れた。
 自動ドアがガーっと開いた瞬間、身構える同居人。

「あぁ、こういう取っ手のないガラスの扉は勝手に開く……のもテレビで見ませんでした?」
「…実物は初めてだよ」
「あー、まぁ慣れて下さいいっぱいあるんで。あとはぐれたら置いてきますんで」
「貴様、斬滅されたいか…」
「斬滅て…刀置いてきてますけど素手でも切れるんですか?技名なんですか?」

 なにそれすごい。異世界ぱねぇ。某狩人漫画のじゃんけんチョキの能力とかそんな感じ?
 本気で聞き返したら視線をそらされた。

「あまりいじめないでやってくれるかい?」
「あ、すみません、本気でした。異世界の人ならそういうのできるのかなって」

 カートを押しながら食料品売り場に足を踏み入れる。

「テレビでも見たけれど、本当にすごいね」
「飽食の時代とか言われてますしね。皆さんは調理します?
 しないなら短縮して出来合いのとこまでいきますけど」
「ああ、短縮してくれて構わないよ。今度ゆっくり昼に見に来る」
「そうしてください」

 くるのに時間がかかったから帰るのにも同じだけ時間がかかる。
 つまり往復徒歩だと80分。せっかく早く帰ってきたのに睡眠時間がゴリゴリ削れていく。
 一応値札だけさらっと見といて下さい、と籠には何もいれずに通過だけした。
 いつも通り出来合いのものと、カップ麺とを籠に突っ込んだ後。

「……あれは置いていないのか」
「あれ?」

 珍しい、抜刀男が声をかけてくるなんて。

「貴様の部屋にあった、黄色い四角い箱の」
「黄色い四角い……ああ、カロリーメイト」

 そういえば減ってた。基本5箱常備なのに、1箱だった。みんなで食べたのかな。

「あれいいですよね〜、手軽に栄養摂取できるから重宝してるんですよ」
「高価なものか?」
「いや、安いほうですよ」

 渡したノートとペンを合わせたくらいです、と伝えればそうかと小さくつぶやいた。
 気に入ったのかな。ガラガラとカートを転がしてカロリーメイトのコーナーまで行く。

「チョコレートとメープルしか買わない主義なんで、他の味試してみたかったら買いましょうか」
「これでいい」

 これでいい、とまっすぐに手を伸ばした先はメープル味。へぇ、顔に似合わずメープル好きなんだ。
 私もメープル味派だし、最近あまるのチョコレート味だし……在庫全部メープルにしようかな。
 がさっと10箱ほどまとめてメープル味を籠の中に突っ込む。保存のきく食べ物はまとめ買いが基本です。

「三成君、きちんとした食事をとらないと」
「栄養補給ができると言っていたので大丈夫です」
「君は一日それひと箱で済ませるから…」
「…私には時間の無駄ですので」

 異世界人の問答に思わずぐりんと抜刀男を向き直ってまじまじ見てしまう。不機嫌そうに眉が寄る。

「なんだ」
「羨ましい」
「は?」
「この体型で一日カロリーメイトひと箱?
 燃費いいなァ、めっちゃ働けるじゃん食費も浮くし、うわ、いいなァ低燃費」
「……君、君はきちんと食事をとっているんだろうね?」

 素直にうらやましがる私にどう対応したらいいか困惑するような抜刀男と、じろりと標的を私に変える麗人。

「失礼な、不本意ながらそっちの人よりはきちんと食べてます」

 最低一日カロリーメイト2箱くらいは。…激務が続かなければ。たぶん。
 食品コーナーを切り抜け、雑貨売り場へ向かう。とはいってもそんなに必要なものは…、あ、そうだ。
 この人たちの荷物入れる用の箱買わないと。少なくとも初日の格好の分は収納しておいてほしい。
 ……いや待て、そこまではさすがに面倒見過ぎだ。転がっていたら蹴飛ばせばいいだけの話だしな、うん。

「この辺雑貨コーナーですけどなんかあります?」
「できれば共用の手ぬぐいではなく個別に欲しいところなのだけど」
「ああ、はいタオルですね」

 タオルの売り場まで行って、カートを止める。

「この辺にあるので、お好みでどうぞ」

 他には?と聞けば、抜刀男が口を開く。

「木刀は置いていないのか」
「ぼ、木刀?あるかなぁ」

 探したこともないわ、それ。お土産用のとかでいいのかな。ちょっと聞いてみますね、と店員を探しに行く。
 深夜帯ということもあって店員も客も少ない。結局レジまで行って聞いてみたけどないようだ。
 そりゃスーパーに木刀なんて置かないよね。

「ここには置いてないみたいなんで今度通販してあげます」
「つうはん?」
「通信販売と言って、んーと、商品を自宅までお取り寄せできる仕組みがあるんですよ」
「便利な世の中だね」
「便利なサービスの裏には犠牲になってる人間が必ずいるんですけどね」

 24時間開いているコンビニもスーパーも深夜労働を強いているし、通販サイトだってサーバーは24時間監視がついている場所かもしれない。
 そもそもそれを開発構築した人だって短納期だったろうし、トラブルがないわけじゃないからサポートセンターだって大変だ。
 うぁサポセンで思い出したチクショウこないだの炎上の報告書上がってきてねーじゃねーか。さっさと出せと言っただろうに。明日朝一で出させよう。

「どうかしたかい?」

 仕事の思考に乗っ取られそうなところを現実に引き戻したのは白髪の麗人で。

「あー、すみません、思考が飛躍して仕事のこと考えてました。
 他に探し物はありますか」
「緊急ではないよ」
「了解です。じゃあ売り場説明だけざっとして、お会計しましょう」

 ざっくりとここには何々があってー、という案内を進め、値札は今度来た時にでも見て下さい、で流す。

「……君は、僕たちに支給するのが自分の給与の8分の1だと言っていたね」
「そうですね」
「その中に先日の着物の金額も含まれるかい?」
「計算が面倒なので今日までは私の財布から出します。
 明日からは渡したお金で何とかやりくりしてください」
「ざっと値札を見たけれど、多すぎやしないかい?」

 えー、三人分って考えると一人月一万だよ?娯楽費省いても食費でそれって少ないよ?一日300円だよ?一食100円になるよ?向こうとは金銭感覚違うのかな。ひと月のお父さんのお小遣い並、というかそれより下手すると少ないと思うんだけど…。

「余る分には最後に返してください。足りない分は都度言ってくれれば検討します」

 その内金銭感覚身に着けてなんやかんや言うかもしれない。そっとしておこう。








<Prev Next>

back





2014.04.21