衝撃の事実
結局スーパーであーだこーだと品物について教えていたら2時間どころではなく出発から3時間かかっていた。
「ただいま帰りましたー」
居間へと続く扉を開けて言えば、包帯の人はびくりと体をこわばらせた。
どうやら腕の包帯を巻きなおしていたらしく、ほつれた包帯の向こうに、赤くただれた皮膚が見えた。
素早く袖の下に隠されたけど、あれ、私の認識違いか。いや、でも、確かに見たぞ。
中身、あったぞ。
「ヒ、ヒヒ、遅かったなァ」
じっと包帯の…名前は確か刑部さんだったか…を見れば居心地悪そうに眼をそらされたけど、ああ、と一人頷いた。
「……透明人間じゃ、なかったんだ」
私の発言に異世界人たちはそろいもそろってぽかんとした表情になった。
あの鉄仮面と言っても差し支えない抜刀男でさえも、だ。失礼な。
むしろ本気で透明人間だと思っていた私が今のシーンでぽかんとしたかったわ。
「……毎度ぬしの発想には感嘆する」
しばらくして、ようやく復帰した包帯がぽつりと零した。失礼な(2回目。
「包帯ぐるぐる巻きと言えば透明人間でしょ普通」
もしくはミイラ男だけど、ミイラ男は骨と皮だけだからもっと細いと思うし。
なんだ普通の人間だったかー、とスーパーの袋から愛食のカロリーメイトを引っ張り出して保管場所に重ねた。
「これは業病の証よ。ぬしもあまり近づきやるな」
「ごうびょー?ってなに、移る系の呪い?」
異世界用語だろうか。ごうびょう、ごうびょう…、だめだな、私の生活範囲圏にない言葉だ。
「ヒヒ、それよそれ」
「てか、なにそれヤバい。そんな体で活動できるとか精神力高過ぎじゃね?」
つまり、呪いの装備を標準装備ってことでしょ、素早さ0とか守備力0とかそういうことでしょなにそれすごい。私の異世界の基準はRPGなのだがそうでなくてもすごいだろ常識的に考えて。
言われてみればこの人うちに来てからソファ以外にいる姿を見てないけど、え、つまり動けないってこと?そういう呪いってこと?なにそれ異世界怖い。ていうかトイレどうしてるんだろうね、聞いちゃいけない気がする。
感心した私には、ぽかん、と本日二度目の間抜け面を向けられた。後ろで抜刀男も同じ顔をしている。麗人だけは一回目で慣れたのか笑っている。
あっれー、また変なこと言っただろうか。
もーしもーし、と目の前で手を振ったらびくりと体ごと引かれた。え、なに触るとアウトなの?
「ふふ、一本取られたね、吉継君」
一本取った気は全くないんだけど、きっと彼が言うところの私の発想に再度感嘆したんだろう。さすが私。
「異世界人はステータス高いなぁー。
頭脳派の偉い人と、身体能力のすごい剣士と、呪いをもろともしない精神力の人とか、どんなパーティだよ。
賢者と剣士と魔法使い?なにそれ魔王でも倒すの?」
「まぁ今のところ打倒魔王ではあるかな」
「マジで!?」
え、魔王とかいる世界なの、ていうか打倒ってこの人たち勇者かなんかなのなにそれヤバい。
でも全然勇者っぽくないしどっちかっていうと悪役のような気がするけどそんなことを口にでもしたらとんがり頭に斬滅されてしまう。
今のうちにサインでももらっておくべきか、いやしかし、異世界の人のサイン色紙ってこっちじゃ価値ゼロだよな、うん、落ち着け私。
百面相の結果、時計が目に入ってすでに深夜に突入していることに気付いて、まぁ寝ましょうか、と口にした。
寝る支度を始めれば、君夕餉は?と麗人が微笑むので、会社で済ませてきました、と答えて布団にくるまる。
本当は昼食べて以降何も食べてないけど、それよりも睡眠だ。何はともあれ睡眠だ。
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2014.04.21