夢話-夢小説の間-





異世界剣士の夜






 あの女が帰ってきた気配がする。
 それに合わせて扉を開けるのが最近の日課となっていた。
 初め、両手がふさがっているかもしれないから、と仰せになった半兵衛様のご用命通りに扉を開けてやり、以降それは続いている。
 間抜けな面をさらしたのは初見のみ、あの女もそれ以降は礼と共に玄関をくぐる。
 がちゃり、おおよそ向こうでは聞きなれぬ音を聞きながら扉を開けば今日はそのまま倒れ込んできた。
 倒れ込む音で二人の眠りを邪魔するかもしれない。
 致し方なく受け止めれば捕まる気配すらなくずり落ちる。

「おい」

 返事はない。息はしている。過労というやつか。
 そういえばここ数日は特に帰ってくる時間が遅かったように思う。
 今日とて半兵衛様や刑部はすでに眠りに就いている刻限だ。
 ここへ転がしておいてもいいが、半兵衛様が気にされるだろう。
 仕方なく抱きかかえていつも女が使う布団に転がした。
 瞬間、がばりと起き上がる。

「布団?あれ、家にいる?なんで?」
「騒ぐな、半兵衛様の眠りを邪魔するようなら斬滅する」

 後ろで動く気配があった。おそらく刑部は目を覚ましただろう。
 声をかけてこないところを見るに、再度寝入るつもりだろうが。
 きょろりと女は視線をさまよわせて、私に向ける。

「あれ、えっと、三成さん、だっけ?」
「なんだ」

 先ほどよりもひそめた声に刀から手を放す。

「……ここ家?会社出たとこから記憶が飛んでて…あ、タクシーに金払ったかな…記憶ねぇ」
「……いつも通り扉を開けた瞬間、貴様が倒れ込んできた」
「お、おお、ああ、じゃあ運んでくれたのか、ありがとう」
「貴様の為ではない。貴様が倒れれば我々も迷惑をこうむる。
 倒れることは私が許可しない。いいな」

 言えば、うわぁテンプレ、と呟かれた。
 意味は分からないが不愉快だ。
 女はけいたいとやらで時間を確認し、げ、三時じゃん、とため息をつく。

「起こしちゃった?」
「睡眠など不要だ」
「へぇ、燃費よくてショートスリーパーか、羨ましい」
「……」

 変わった女だ。半兵衛様や刑部は常々きちんと寝ろ、きちんと食えと言ってくるというのに。
 羨ましい、などと言われたことはない。
 だからだろうか、

「さっさと寝ろ」

 いつもは自分に掛けられる言葉を女にかけた。

「ん、おやすみー」

 着替えることなく布団にもぐりこみ、数秒と立たずに寝息を立て始めた。
 代わりに、聞きなれた引き笑いが耳に届く。寝入らなかったのか。

「……刑部、貴様」
「やれ、三成が誰ぞに対して早に寝ろ、だのとヒヒヒッ。
 ぬしも早に寝やれ」
「チッ」

 そのまま移動するのも億劫に感じ、女の傍の壁に背を預け、膝を立てて目を閉じた。








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2014.04.27