夢話-夢小説の間-





終:社畜の休息






 風呂、沸かそう。
 なぜか、どうしてか、わからないが、箸が転がっても笑いそうな勢いで爆笑をし続ける二人のうち一人の背を撫でながらそう思った。
 明日もトラブルが入らなければ定時に上がれるはずだ日曜日だし。
 この判断をおかしい、と思えないのが完璧な市民と言うやつですよ。
 風呂場に向かう際に三成さんの横をすれ違い、ふと臭いに振り返る。
 視線に気づいてこちらを見た彼だがすぐにその視線は逸れた。

「三成さん、汗かきっぱ?」

 いつも通りの文句を言いたげな顔がこちらを向く。
 タオル一式が詰まっている中から彼用の藤色タオルを引っ張り出して投げつけた。

「汗臭い、風邪ひくよ」
「な」

 文句を言われる前にガスのスイッチを入れてお風呂にお湯をため始めた。
 貯まるまでの間に着替えとバスタオルを用意して、そこで、久しぶりに電話が鳴った。無論、会社の。
 顔を極限にまでしかめるがそれを咎める人はいない。笑い転げる人ならいるが。

「電話が音拾うんで静かにしてもらえますか?」

 冷たく硬い声で言い放って、ノートパソコンを起動しながら電話に出た。

「はい」
『あ、ちゃん?ごめん、おやすみだった?』

 聞こえた声にほっとする。厄介事ではなさそうだ。

「ああ、お久しぶりです。トラブルですか」
『至急ってほどでもないんだけどなるはやで』

 あの狸がぶんどってきたの仕事で取引先の大手企業の担当営業だ。
 この業界にしては珍しく融通が利き、頭も周り、賢いから要件が端的に済むのでいつの間にか仲良くなった。さすが大企業は違う。
 要件をノートパソコンに打ち込んで、すべて明日こなせそうな要件なので明日やる旨を伝え電話を切った。
 面倒な相手じゃなくてよかった、と息をついてノートパソコンを閉じて風呂へ向かった。

「あ、もういいですよ」

 と、静かにしてくれた同居人たちに声をかけて。
 途端、また静かに笑い始める麗人と包帯。

「……いつも、こうなんですか?」
「……いや」

 思わず三成さんと一緒に呆然としてしまったのは、致し方ない。
 それからお風呂から上がって、髪を乾かして水分補給。
 平日はまず湯船につかることがほとんどないので、なんだかほかほかする。
 やっぱり湯船につかった方がいいんだなァ、と思いながら部屋に続く扉を開けた。

「おい」

 あら、珍しい。三成さんが話しかけてきたので視線をやれば、机に置いたケータイが着信をお知らせしていた。
 今度は個人用の。
 さっさと止めろ、と言いたいらしい。
 スマホの画面には妹の名前が出ていた。あいついつも唐突だな。

「なに?」
『あ、おねーちゃん?元気ー?』

 能天気な声に懐かしささえ覚えた。
 4つ離れた妹だ。すでに結婚して身ごもって……5か月だったか。月日が経つのは早いものだ。

「元気元気、そっちは?もう五か月くらいだっけ?つわり終わった?」
『うん、一週間くらいで終わった』
「はええ、性別わかるのいつだっけ?」
『もーちょいかな。新しい男見つけた?』

 楽しんでいるようなからかっているような、そんな問いに、ぐっと詰まる。

「いらない」

 即答したのち、まずい、と思って「当分」、と付け足した。
 なんだかんだで心配させているのは重々承知している。私の本心はさておいて、純粋に私の結婚を心配しているようなので、それを丸ごと突っぱねるほどお子様ではない。

「ああ、そうそう、こないだ主任に昇進した」
『ちょ、帰ってくる気あんの?』
「んー、今はあんまり。もうちょっとゆっくりさせてよ」

 電話越しの声とやり取りしながら久しぶりに穏やかに笑えた気がする。
 ここ以外にも、居場所があるんだ、と、そう教えてくれる。
 ひとしきり近況を報告しあい、じゃあまた、と電話を切った。
 そしてようやく気付く私に注がれた視線。

「何か?」

 なぜか、変な生き物を見るような目で見られている。

「今の、相手は?」
「妹です」
「イモウト、とな」
「はぁ、まぁ、」

 なんだと思われていたんだろうか。
 さっきまで大爆笑していた二人が神妙な顔つきになった。

「いや、随分柔らかい顔をするなと思っただけだよ、気にしないでくれ」
「はぁ、そうですか」

 そりゃ他人に向ける顔と家族に向ける顔と違うのは当然な気がするけれども。
 ああ、この人たちは変わらなそうだな、いつでもどこでもゴーイングマイウェイしてそうだもんな。
 強引に腑に落として、私はいつもより早めに就寝することにした。








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2014.05.06