不幸話、ひとつ
「ぬしはどうしやったら不幸になる」
カップ麺をすすっていたらいきなり刑部さんに質問されました。
しかも真顔です。
本当に不幸が好きだなぁ、と感心しながらずずっとすすっていた麺を平らげる。
「いきなり真顔でそんなこと言われても」
幸せとか不幸とか、主観的なもんだからなぁ。
「こっちの詩にちょうどいいのがあるよ、幸せはいつも自分自身が決める、ばいみつを」
「……ぬしは幸せか」
「刑部さんは哲学好きだねぇ。私は自分の幸せについて考える期間は終わりましたー」
まぜっかえすように返してスープを全部飲み干す。
そんなことを話していれば、じろり、三成さんがこちらを見た。
何だろう、無遠慮な視線が私を観察している。
「行き遅れか」
「酷い茶々入れを見た、三成さんマジ酷い」
「生き別れか?」
うさん臭そうな視線に変わる。
何故だろう、最近三成さんの視線がとても雄弁に感じるのは彼に慣れてきたせいだろうか。
「前者です、チクショウこの野郎イケメン爆発しろ」
「貴様はもう少し肉をつけろ。抱き心地が悪そうだ」
「セクハラか!」
挙句、暴言である。
以前溺死未遂で真っ裸を見られているから何にも否定のしようがないが、肉付きが悪いのは遺伝だ。絶対そうだ、そうに違いない、あと過労そう、絶対そう。
……うん、知ってる。諦めてる。いろいろ。
「なれば不幸か」
「だーかーらー、刑部さんの物差しで世の中推し量れると思うなよ!
結婚することが女の幸せなんて古いですしおすし!
半兵衛様二人がいじめます部下に教育的指導を!」
「いいんじゃないかな」
「なにが!?」
絶対この人どうでもいいとか思ってやがる!
実際どうでもいいんでしょうけれど!
悪びれもしていない。三人全員が。
まぁ、いいんだけれど。幸せとか、そんな。
「……、こういうくだらないやり取りしてる時間は結構幸せかも」
まるで、地元に置いてきた気の置けない友人たちと馬鹿やって騒いだみたいな。
ぎゃぁぎゃぁとどうでもいいことを言い合って、貶し合って、笑いあって。
「それにしても、君は婚姻に対して否定的なのだね」
いつの間にかおいしい紅茶を淹れるというスキルを手に入れた賢者がそれを口にしながらにこりと笑って言った。
むぅ、と思わず顔をしかめる。
「そこですか、そこに着目するんですか」
「僕らの世界では女性は皆そういうものだからね。
婚姻を結び子を成すことが女性の務めだよ」
「……ちなみに、その平均年齢は?」
「身分にもよるけれど、月のものがき始めたら大抵は嫁に出されるかな。
10代後半で行き遅れ扱いだね」
……と、いうと、平均14,5歳ってところ?
うわ、大変だなぁ。
ドラマで中学生が妊娠して云々みたいな話しがあったけど、それくらいが普通ってことか。異世界って恐ろしい。現代社会万歳。三成さんの行き遅れ発言は許してあげよう。でも近所でそういう発言したらロリコンだからな残念だったな。
「では男性の務めは?」
「これも身分にもよるだろうけれど、外で田畑を耕したり、戦いに赴いたり、政を行うことかな」
「へぇ、男中心の世界なんですね」
ほんっと昔の日本みたい。
「ここは違うようだけれどね」
「そうですね、男女は関係なくみな平等です。
学問を学べる環境に差異はありませんし、雇用に関しても差別をしてはならない、という法律まであります。
男より稼げる女もいれば、女よりも家事が得意な男もいる、そういう世界です」
まぁ、まだ昔の空気が今の時代に残っているせいか政治家は男が多いけど、それにしたって女が政治にかかわることもあるって結構すごいことなのかもなぁ。邪馬台国は女王が治めていたけどそれ以降はあまり聞かない。
それに職種によっては女ばっかりの職場もあるし、化粧品会社とか……私は絶対無理だ。あんな女の園死んでしまう。
「面白い世界だが、ぬしは質問をはぐらかすのがまこと上手よなァ?」
「はぐらかしたわけじゃないけど……。
結婚に対してっていうか、私、男嫌いなんで」
幾分むすっとした顔をつくって言うと、半兵衛様も刑部さんも三成さんでさえもきょとり、とした顔になった。まぁね、そうでしょうね。
「嫌いという割に僕たちへ対する態度はそういう風には受け取れないんだけど…」
「そりゃもちろん、男として見てないからですよ」
はい、そこで刀に手をかけるな抜刀男め。
「貴様、愚弄する気か…」
「別に愚弄はしてないですって。
ったくいつか金的蹴り上げますよ?」
「オソロシイおなごよ」
「ならばどういう意味だ、言え」
「皆さんが男じゃないって言ってるんじゃなくて、私が一個人としか見てないだけです。
それは世の中のすべての男と分類される人間に対してでも変わらないです」
男なんて、滅びればいいんだよ。滅しろ。
夢ばっかり見て、押し付けて、都合の悪いことは隠して、つけてもいない嘘をつく。
「よほど昔の男に酷いことをされたと見える。こわやこわや」
ひっひ、と愉快そうに笑う刑部さん。
私の不幸話が見つかって何よりですよ、ええ。
「……まぁ。今となってはどうでもいい話ですがね」
思い返しても……胸糞悪いというか、どうしようもないというか。
ああ、自分なんであんなにバカだったんだろうな、恋は盲目ともいうけれど。
私だって、頑張った。二人の未来を守ろうとした。
でも、それにしたって、アレはなかった。うん、なかった。
いいんだ、あのままでいたら壊れていたのは私だったんだから、もう、別に。
私は完璧に幸福で完全な市民をしながら社畜してるしがないSE。それで充分なのだから。
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2014.05.13