夢話-夢小説の間-





不幸話、ふたつ






 朝一、アラームで目が覚めた直後に電話が鳴った。電話の主は……見たくもない名前。
 放置。放置決定。

「おい、うるさい止めろ」

 放置したまま朝の支度をすれば、三成さんから文句が飛んできた。

「電話が切れたらミュートにするからちょい待って」
「出ないのかい?」
「出ません」

 半兵衛様に重ねて聞かれるも、放置。
 いったんバイブレーションが治まったのを見て、ミュートにしようと設定画面を開いた直後にまた着信。
 名前は先ほどと同じだ。頭が痛い。
 昨日、あんな話をしたからだろうか。

「おい、」

 いい加減三成さんが切れそうだ。
 出たくない。でもこれ以上引き延ばしてもたぶんまたかかってくる。
 通話マークをプッシュ。

「……はい」

 声は予想以上に低く出た。

『あ、出てくれた。久しぶり』
「何か御用で?」
『えと、ごめん、その頼めた義理じゃないんだけど…金貸してほしい』

 ああ、頭痛がする。今日は休みたい、本気で、本当に。
 はぁなんなんでしょうね、平日の朝っぱらからもう。
 かけるべき言葉を探して、罵詈雑言しか思いつかなくて、結局出たのはため息だった。

『あ、も、もちろん今まで借りてたのは返すからさ、その、すぐに必要で』
君?」

 私の様子に半兵衛様が首を傾げている。
 ほんっと綺麗な顔してるよなァ。
 などと現実逃避している場合ではないのだがしかし全力で現実から逃げたい。

『今の、男の声?あー、もう新しいやつできたんだ?じゃあさ、そいつに』

 電話口の声に現実に引き戻される。
 そういう認識ってどうなのさ、いや、こんな時間から男と一緒にいる独身女性も珍しいけどそれにしたって酷い。それ以上、言葉と紡がせたくなかった。

「あのさ、アンタ今働いてんの?」
『え、ああ、まぁ』
「それで賄えないの?」
『だからこうしてお願いしてるんじゃん』

 反省も悪いとも思ってない拗ねた物言いに、ぶちりと頭の中で何かが切れた。

「自分の稼ぎで自分ひとり面倒見きれなくて周りに無心って、一人で生きられないってことだよね?
 他人に面倒見てもらわないと生きていけないなんて、家畜と変わんないじゃないですかやだー。
 ああでも、家畜には利用価値はあるけど、アンタにはないか。生きてる価値もないなら死ねクズ」

 ピッ、と言いたいだけ言って電話を切った。ついでに着信拒否の設定もしておく。
 苛立ちついでに布団に向かって携帯を投げつけた。
 酷い言葉を吐けるようになったものだ、数か月前まで…愛を語らう仲だった男相手に。
 なんでこうなったのか、何がいけなかったのか、何をしなくてはいけなかったのか、未だに全然わからない。
 けど、今はこれで正しい。愛も、義理も、もうない。貸しはあるけど借りはない。これで関わり持とうと思われなければ、もっといい。

「…、昔の男か?」
「うん」

 察しのいい刑部さんの問いに簡素に返した。
 すぅ、はぁ。深呼吸一回。
 あの程度で心が揺らぐのだから、困ったもんだ。
 ギュッと自分の両頬をつねる。痛い。

「うっし」

 おっけーおっけー。
 まだ、大丈夫。リスカまでいってないし、大丈夫。自殺も考えてない、大丈夫。
 大丈夫って言葉をチョイスしている時点で実は大丈夫じゃないということは知っているけど大丈夫。
 何とかなる、何とかする、私なら、何とかできる。ずっとそうしてきたしこれからもそう。だから大丈夫。

「やれ、涙の一つでも見せれば慰めようものの」
「えー、涙流してなくても慰めてよー」
「ふふ、その調子なら大丈夫そうだね」
「半兵衛様の優しさだけが味方です」
「さっさと行け、定刻だ」
「ぎゃー、マジだ、いってきます!」

 言われてテレビの時計を見れば確かにいつも出る時間。
 バタバタと鞄をひっつかんで、投げた携帯も回収して玄関で振り返る。

「ありがと」

 いつも通りの声をかけてくれただけでも、結構救われるもんなのだ。
 下手に気遣いがかからない、それだけで、充分心が軽くなる。
 たぶん、私が地元に帰らなかった一番の理由は、コレ、なんだろう。
 勢いよく飛び出して、その結果がこれで、心配をかけて、壊れ物のように扱ってほしくないけれど放っておいてほしくもなくて、自分が分からなくなって、…結局どうにも動けなくて。
 ただの臆病者。
 知ってる、知っているから、元の私に戻れるまで、もう少しだけここで。
 つぅ、と零れた涙を無理やり拭って、いつも通りに戻すため、会社へ向かった。








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2014.05.13