不幸話、反転
お風呂から上がって水分補給、いつもの手順を踏んで、肩についた跡の文句を言ってやろうかどうしようか悩みながら部屋に入れば、先ほどよりも空気は軽い。
さすが異世界の人は切り替えが早いなァ、なんて呑気に考えていたのは私だけだった。
「歓喜しろ、明日から私が貴様の護衛をしてやる」
部屋に入った直後、私を見下しながら三成さんが言い放った。しかもドヤ顔だ。
どうしよう、ついていけない。
彼の後ろにいる半兵衛様や刑部さんを見れば、何やら微笑ましげにしているんだが説明を求む。
「君の賞賛すべき無謀さを三成君に補佐してもらうことにしたんだ。いい案だろう?」
「腕は随一よ、安心しやれ」
なんかスゲー楽しそうにしてるんですけどー。
目の前の抜刀男はともかく後ろの二人はとってもよく頭が回る。そのよく回る頭の中で何がどうなってこうなったのかがさっぱりだが。
よって、承諾するのとお断りするのと天秤にかけて、明らかに断ったら面倒くさいことこの上ないことがわかりきっている。
選択肢がない。まぁ、干渉には入らない、かなぁ。そろそろ干渉云々あきらめた方がいいような気もしてきた。
そしてなんでだろう、昔、あれと同棲していたころより大事にされている気がするんだがコレが異世界クオリティなのか。異世界怖い。
「、えっと、ありがとうございます、喚起しておきます」
主に、私の心に注意を。
「なに、われらは暇人よ、気にしやるな」
「……いや、まぁ、はい、ありがとうございます…。
あ、言っておきますけど」
「刀は持たん、無論木刀もだ」
「あ、ならいいです好きにしてください」
結論、放置。
放っておいてもその内自分の世界に帰るだろうし、それまで好きにさせておこう。
私も依存しすぎないように気を付けておこう。この異世界人たち高性能すぎる。
はぁ、と、ため息をついていろいろと諦めた。
さて、肩の違和感が取れない。救急箱どこに収納したかな。湿布くらいはあったはず。
痛み止めもあったような気がする。頭痛や生理痛以外で使うとは思わなかった。
「ああ、あったあった」
棚の奥から引っ張り出して、湿布と薬を確認。
「それはなんだ?」
「湿布、ってそっちの世界にもあります?」
聞けば、しっぷ?と久しぶりに頭の上にはてなマークをかっ飛ばしていた。
まぁ怪我しなければお世話になることはないので、超人の彼らには不要の産物かもしれないが。向こうはどうなんだろう、RPG的に言うとベタに薬草とか?
「打ち身とかに効く貼る薬のことです」
「打ち身?……どこか怪我でもしたのかい?」
「ええまぁ」
「いつだ」
ふふ、それをあんたが聞きますか。
三成さんを見て悪意を込めてにっこり笑う。
「さっき肩を思いっきり掴まれたところにくっきりと手形がですね?」
「……」
「……」
「……軟弱な貴様が悪い」
半兵衛様と刑部さんとに見つめられ、三成さんはむすっとしたまま気まずそうに視線をそらしてそう言った。
なんだその叱られた子供みたいな反応。
ふ、と思わず笑ってしまった私を、すかさず笑うなと怒鳴りつける三成さん。
それをなだめる刑部さんと、柔らかく微笑む半兵衛様。
散々な一日の終わりに転がり込んだ、ちょっとの幸せがくすぐったかった。
……だが、明日も仕事だということを決して忘れてはいけない。
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2014.05.15