夢話-夢小説の間-





護衛 行く道






 朝に起きて、いつも通り支度を終えた私は猛烈な違和感に襲われている。
 と、いうのも。

「行って参ります」
「気をつけて行ってきたまえ」
「抜かりなくな」

 玄関に長身で銀髪の男――三成さんと並んでいるからです。
 そして、その三成さんに声をかける半兵衛様と刑部さんの物騒なこと。
 朝から正当防衛の有効性について三成さんに散々叩き込んでいた。
 相手に手を出させろ、反撃は一発程度、殺したら過剰防衛になるから却下、以下略。
 あんたらは異世界を渡り歩くマニュアルでも作る気か、と思うくらいに私が知らないことまで吹き込んでいた。
 私がいない間にどこでそんな勉強をしたんだか。ネットか?使い方教えたっけ?ああ、CMで続きはWebで!ってやってた意味を教えてからですかね、わぁ、異世界人まじ高性能。

「何を呆けている、さっさと来い」

 扉の向こうからガンを飛ばしてくる彼にはいはいと返事をして、お留守番組に出発の挨拶をして家を出る。
 通勤ラッシュに乗り込む人間の群れ。
 いつもはすんなり溶け込めているというのに、今日は私の周りが半径1mくらい空いてます。

「護衛はまぁ構わないんだけど…」
「なんだ」
「周りにガン飛ばしながら歩くの止めません?」

 日が出ている内はこの人と並んで歩きたくない。
 顔つきが元から怖いせいも相まって、通行人が寄ってこない。
 いや寄って来なくてもいいんだけど、通行の邪魔というか。
 ああ、補導されないか心配だな。

「警戒するに越したことはない」
「はぁ、まぁいっか。歩きやすいし」

 と、駅へ向かう曲がり角をスルーして三成さんが直進する。

「三成さん駅はそっちじゃないです、こっちです」
「うろうろするな」
「お前がな!」

 戻ってきて、むっとした顔で言うので、こちらも同じく返してやった。
 まったく、朝から変な方に頭を使わせないでほしい。
 護衛の件は駅まで。
 その辺はいろいろと理由をつけて半兵衛様刑部さん込みで説得済みだ。一番効いた説得のセリフが“交通費”って…、いや考えまい。
 会社の入り口まで付いてこられた日には社内でどんな話が流れるかわかったもんじゃない。ゴシップ好きの先輩にだけは見つかりたくないものである。
 駅の改札で、じゃ、と別れて頭を仕事用に切り替える。

 だから、気付かなかったのだ。






「遅い」

 終電に乗り、駅の改札を抜けた先で、不機嫌そうな仁王立ちの三成さんに遭遇するまですっかり忘れていた。
 護衛するとは言っていたけど、まさか帰りまで来るとは。
 襲われた時間帯的に考えて、帰りを護衛する方が正統なんだろうけれども。

「……あの、何時に帰るとか言わなかった私が悪いかもなんだけど、何時からそこに」
「23時だ」

 きぱっと答える時刻はもうこっちの標準時間。
 時間の概念をすっとアウトプットできているのを考えるに、実はこの人も頭が良かったりするのか。
 ともかく、一時間以上は待たせていることになる。

「…朝だけでいいのよ?」
「貴様先日のことを忘れたとは言うまいな」
「そうだけど、タクシーで帰る日とかどうする気?」
「たくしい?なんだそれは」
「会社から家まで直通で運んでくれる車。高いから経費で出るとき以外使わないけど」
「……籠のようなものか」

 かごって、何時代ですか。意味合い的には大体あってるけれども。
 車で通勤してもいいけど、そうすると会社の近辺に仕事が終わるまで三成さんを放置することになる。通勤に男連れって何なの。あ、もう車で行くってことにして護衛の件をなしに……できるわけ、ないか。大体それなら今の定期がもったいない。

「…護衛自体を辞めてくれたり…」
「無論却下だ」

 デスヨネー。
 うんうん、とうなって考えた結果。

「…わかりました、あなた方に携帯を支給します」

 一番無難な策をひねり出した。








<Prev Next>

back





2014.05.21