夢話-夢小説の間-





文明の利器2_続:携帯






 文明の利器に慣れてくると、段々と細やかな気遣いやら根回しやらを忘れてしまうものだな、と実感しました。
 なんで冒頭からそんなことを述べているかと申しますと。

!!貴様いつ戻る気だ!終電が今しがた出て行ったぞ!』

 どうやら説明書を解読しきった刑部さん指導による三成さんからの初通話でお叱りが飛んだからでござる。
 『異世界人』で登録したアドレスから通話通知が着た瞬間思わず二度見したね。
 てか、終電って普通にしっかり発音できるようになったんだなァ、すごいすごい。
 ちなみに終電過ぎている時間に私がどこにいるかと言いますと。

「今日は会社に泊まるです」

 会社です。電話ばっかかかってきた挙句客先がトラブル起こしてくれちゃったせいでいろいろ終わんなかったんだよちくしょぉおおおお。
 はぁ、と深いため息。
 今まで携帯がなかったときは、泊まるかもー、と言って家を出ていた。
 何より護衛なんて大袈裟で面倒なものがついていなかったのもあったし、当時、彼らもそこまで私に干渉してきていなかった。
 正直面倒くさい。いや、ありがたいんだけど、そこまでしろとは言ってない。
 なんか、どこかでこのもやっとした感情を抱いたことがある。
 少し考えて、実家の親に向ける感情と似たようなものだ、と思い至った。

『…多忙か』
「ええまぁ」

 私の声のトーンでお疲れモードを察したのか、三成さんの声から棘が抜け落ちた。
 護衛を始めてくれてからわかったことだけど、この人一対一だと意外と優しい。
 優先度が、半兵衛様>刑部さん>>(越えられない壁)>>私、なので本当に一対一の時に限るが。
 あと、意外と私の仕事に対する姿勢を買ってくれているようだ。
 仕事だから、というと大抵主張を引込めてくれる。今しがたの様に。

『そうか、励め』
「…あ、うん」

 応援までしてくれた。珍しい。三成さんがデレた。明日は雨だな。
 じゃ、仕事に戻るんで、と電話を切る。
 三成さんの声を聴いて仕事から意識が逸れたのか、空腹感を覚えた。そう言えば昼以降何も口にしていない。コンビニでも行くか。
 コンビニにいってお弁当にしようかと思ったけど、そそられるものがない上にこの時間は品ぞろえも微妙。
 悩んだ末に、結局カロリーメイトと栄養ドリンクを買う。無駄に時間を使ってしまった…。
 私ってばマジ健全で完璧なるUV様の幸福な下僕。と呟きながらデスクに戻れば携帯にメールが届いていた。

『泊まり込みは構わぬが、きちりと食い、眠りやれ。半兵衛様も心配されておる』

 刑部さん、メールの送り方まで覚えやがった。キチンと漢字変換までされている、こいつ、できる…っ!
 …というか、だ。二人とも、いや、半兵衛様を含め三人とも、心配し過ぎじゃないだろうか?
 ほっこりする以前に少々呆れてしまった。
 食べない寝ないは今に始まったことでもないし、年のせいか完徹はもう無理だから最低三時間は寝るようにしてるし、社会人になって自分の体調管理とか疎かにするわけがないし。
 赤の他人に向けるにはやや過保護な面々に呆れながらも、了解、ありがとう、と返信をした。
 それから少し考えて。メールを保存しておいた。通話記録は保存できないけど、異世界人初メール記念だ。
 さて、睡眠時間を確保するためにもう少し頑張りますかね。
 自分のところ以外、明かりのついてないオフィスで腕をまくった。








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2014.06.07