夢話-夢小説の間-





文明の利器3:パソコン






 シャワー上がり、髪の毛をタオルで拭いていれば、半兵衛様が、ちょっといいかい、と声をかけてきた。

君は、歴史には明るいかい?」
「いえ、全然興味ないです」
「そう」

 ざっくりとは教養の範囲内で覚えているけど、興味なんてからきしない。
 南アフリカあたりのなんとか原人から人類の歴史が始まって?四大文明がどうのこうので?日本は縄文だか弥生だかそんな時代が始まりだとか、そのあとの平安、鎌倉、戦国、江戸、明治、大正、昭和、平成への移り変わりだとか。本当にざっくりだ。あれ、奈良時代とかどこ行った?
 だから大化の改新だとか応仁の乱だとか関ヶ原の合戦だとか、有名なイベントは耳して、ああ、聞いたことあるかも、で済ませられるが、さすがにその当時の天皇から地方の統治者まで答えろと言われて答えられるわけがない。
 さすがに賢者というべきか、知識欲の塊なんだろうなァ。
 それを言うと刑部さんも知識欲がすごいを超えて酷いし、なんだかんだ最近は三成さんも本を読んでいるみたいだ。今もいつもの騒がしさをひそめ、静かに部屋の隅で読書中である。

「あー、歴史物の本ないですもんね、うち」

 歴史をもとにする本は大体長いストーリーなので飽きてくるのだ。名前読めないし。なんでこの漢字でこう読むんだよDQNネームかよ覚えられんわ、この人いつ出てきたの、は?幼名?改名した?ややこしい!みたいな感じで。

「読みたいんですか?適当に買ってくればいいのに」
「教えてもらったスーパーにはそういった本の売り場がなかったんだけれど…調理の本なら会計の近くにあったのだけどね。コンビニもどうやら多くの書はないようだし」
「……あ」

 てっきり普通にレシピ本増えているから本屋に買いに行っているのかと思っていた。

「えーっと、刑部さーん、パソコンで本屋でググってー」
「…ほんや?発音から察するに本を売り買いするところか」

 言って、手慣れた操作でキーをタッチする。
 おい、ローマ字覚えんの早すぎだろう。もういい、彼らの優秀さにはもう突っ込まん。ていうかそっちの世界の本屋さんないんですかそうですか。
 大体パソコンで操作をするのは刑部さんのお仕事のようだ。
 まぁ足が不自由だとか聞いた気がするのですることもないのだろう。うっかり魔法唱えて家を全焼させられても困るし。

「しかし、ほんやの意味を知りたいわけではなかろ?」

 ソファの隣に腰かけた私を見ながら尋ねてくる。
 ふっふっふ、今やインターネットというのはただの辞書ではないのですよ。地図にもなるのですよ。

「ここに、地図、とあるのでそれをクリック」
「ふむ」

 昨今の優秀な検索エンジン様達は単語検索から地図の照会、スケジュールの管理やメール管理などなど人間が至らぬ点をサポートしまくってくれるわけです。ビバ現代社会。
 少しのロード時間をはさんで表示された画面に、ほう、と息をつく声が聞こえた。

「ちょいとマウス借りますよ」
「ヒヒッ、どれ、捕まえてみやれ」
「ああ、至近距離の刑部さんの声マジ癒し」
「……」

 マウスに手を伸ばそうとしたら、刑部さんがあの念力のようなもので私の無線マウスを宙に浮かせたのだがそれに対する私の的外れな発言を聞いてげんなりした刑部さんがそっとマウスを貸してくれました。
 なんだか残念なものを見るような視線を受けるが、そんなことをいちいち気にかけているほど暇ではないのですよ私は。
 この間、刑部さんリクエストの不幸本を買いに行った近場の本屋と、家が移る範囲の縮尺にして画面を半兵衛様に見せる。

「ここが我が家。ここが本屋です。
 大通りに面しているので建物出てから左に折れて、大通りに当たったら左に真っ直ぐ。しばらく行くと本屋が見えます」
「なるほど、便利なものだね」

 助かったよ、とお礼を言われたので、いえいえ、と返しておく。

「そういや、逆に、歴史のどんなところが気になったんですか?」

 歴史とか、そうそう興味持たないような気がするんだけど。
 あー、でも偉い人なら別なのかな。国の生い立ちとか興味持ちそうだし。
 私の質問に半兵衛様は少し翳りのある笑みを顔に乗せた。…変なことは聞いていないと思うんだけど。

「……戦国時代の豊臣秀吉、という人物について少し知りたくて、ね」
「あ、その名前なら知ってますよ。王道ですね。
 なんだっけなァ、有名な本があった気がする、太閤、太閤なんちゃら記?太閤立志伝?なんかそんな感じの。
 この国じゃ知らない人はいないでしょうし、本屋の店員さんに相談するのもいいですね」

 答えれば、なぜか視線が三対私に集まった。
 半兵衛様からはもちろん、横にいた刑部さんからも、本を読んでいた三成さんからも、である。
 え、なんで?どういうことなの?
 首を傾げて見せれば、半兵衛様が口を開いた。

「…歴史には、興味がなかったんじゃないのかい?」
「え、そこまで壊滅的だと思われてたんですか…。
 戦国時代の織田信長、豊臣秀吉、徳川家康。このあたりの名前なら国民全員知ってると思いますよ。
 ああ、大抵の歴史上の人物ならググっても出てきますし」

 試しに手元のパソコンで豊臣秀吉、と入力して検索結果を出せば、検索結果は50万越え。三英傑を知らぬ人など……小学校の授業をまともに受けていない人くらいじゃないか?

「君は、その三人をどう評価しているんだい?」
「えぇ!?評価できるほど詳しくないです」
「なんでも構わないのだけど、君の声を聴いてみたくてね」
「え、えー…、」

 半兵衛様の無茶ぶりに興味津々なのか三対の目は離れない。
 そしてなにか、三成さんからはものすごいプレッシャーがかかる視線が向けられている気がする。なんでやねん。
 ともかくも、聞かれたことには答えられる範囲で答えようじゃないか。

「うーん、織田信長は、戦上手ってイメージですね。苛烈な印象かなァ…。ホトトギス殺すし。この人の下で働くのはちょっと怖いかも、って感じですかね。リアルに首飛びそう。
 ……っていうくらいしか言えないんですけどそれでもいいんですか?」
「もちろん、続けてくれたまえ」

 にっこりと有無を言わさぬ笑顔を見せられた。
 くっそなんで業務外でこんな真剣に考え後とせにゃならんのだ。

「えっと、豊臣秀吉は…鳴かせてみせよう、だったから…自信家のイメージがありますね。あ、で、確か三人の中で一人だけ農民の出だったと思うんですけど、よく登り詰めましたよねぇ…素直にすごいなァと思います。
 徳川家康は…鳴くまで待つ、から、粘り強いというか辛抱強いというか、いろんな意味で先を読むのがうまい人、なんじゃないかな、と。三人の中で言ったら一番現代人には近いかもしんないですね」

 というか、私の評価が半兵衛様の中でいったい何の役に立つんだろうか。よくわからないけれど、豊臣秀吉の名前にしたって、テレビの番組欄とかで見かけたか何かしたのだろうか。

「こんなもんでもいいんですかね?役に立つようには思えませんが」
「ああ、ありがとう」
「ぬし、そのホトトギスを殺すだの鳴かせるだのは何の話だ」
「え、ああー、実際に彼らが詠んだ歌ではなくて、後世になって彼らの性格とかを詠った短歌なんだよ。
 鳴かぬなら、で始まって、ホトトギス、で締める縛りがあって、間の七文字を正確に当てはめた言葉遊びみたいなもんかな」

 たとえば、
 織田信長なら『鳴かぬなら、殺してしまえ、ホトトギス』、
 豊臣秀吉なら『鳴かぬなら、鳴かせてみせよう、ホトトギス』、
 徳川家康なら『鳴かぬなら、鳴くまで待とう、ホトトギス』。
 言って聞かせれば、なるほど、と頷かれた。
 日本史の授業の時に覚えさせられたものだが、短歌というのは素晴らしい。語呂がいいだけでよく十数年記憶に残るものだ。
 思い返している間に三成さんが何とか様の御威光が何ちゃらとかぼそぼそと噛みしめていた気がしたがひとまずスルーをしておこう、あの人に構いだすと面倒くさい。

「…さて、それじゃ寝ますかね」
、髪が乾いておらぬぞ、乾かしてから寝やれ」
「お母様…!いだっ」
「なんぞ言うたか」

 ごつ、と分厚い装丁の本を頭に飛ばしてきやがりましたよこの魔法使い!
 まあ手荒いものの風邪引くなよ、と。ツンデレかよ。あ、そういえば前に三成さんが、べ、別にあんたのために言ってるんじゃないんだからね!的な発言をしたなァ、ベタに。
 ほんと、保護者かよ、と、じとーっと刑部さんを見ていれば。

「そうか、ぬし自ら宙を舞いたいか、いやすまぬな、気付かなんだ」
「わー、早く髪乾かして寝なきゃー(棒)」

 良い笑顔で何やら構え出したので、自分の健康のためにもドライヤーできちんと乾かしてから寝ることにしました。
 なんだかこの間の襲撃事件から三人の態度の軟化具合が進んでいるんで過保護の領域なんですけど…。お母さん、三人もいらないんですけど。ていうか実家の母を含めたらお母さん四人…。ああもう考えるのやめよう。









<Prev Next>

back





2014.07.02